第7話 血の繋がった他人
誰かにかわいそうといわれたことがある。
だけどわたしは自分がかわいそうとか不幸だとは思ったことがない。
だってこの世界にはわたしより不幸な人なんてたくさんいると思うから。
それにわたしは衣食住がそろった生活を送れている。
天涯孤独というわけでもなければ友人が一人もいないわけでもない。
だからわたしの人生は幸福ではないが不幸でもない、そう思っている。
それは強がりでなく本心だ。
オブラートに包まないで言わせてもらえるのであれば興味ない。
幸せだろうと不幸だろうとどうでもいい。
そんなものは個人の感じ方であって他人がどうこう言うものでもないし。
それに自分がどう感じたところで何も変わらない。
他人よりましだと考えれば醜い優越感に浸れるかもしれないがわたしにとってはそれもどうでもいい。
周囲の人間が想像する通りの私を演じる毎日。
だけどそんな中でも少しづつわたしは変わっていったと思う。
前よりは自分というものを出すことができた。
自分を出しても友達はわたしから離れていくことはなかった。
だけど頼られる存在であろうとすることに変わりはなかった。
強くあろうと、何にも屈することなく、みんなが思い描くわたしを貫こうと思った。
わたしは強くあろうとした。
必要とされたかった。
そうすることで心のバランスを取ろうとしていたわたしの心はやっぱりもう壊れていたんだと思う。
思春期になり、イライラすることが多くなった。
普通の家庭は親にぶつけるんだろうけどわたしにはぶつける相手がいない。
親の苦労を知っているから親にぶつけるわけにもいかず。
同じ境遇にいる以上兄にぶつけるわけにもいかない。
イライラを持て余していた。
だから部活に力を入れることで発散しようとした。
監督にも、学校の先生にもたくさん反発した。
だけどそれでもわたしの心は平静を保てなかった。
だからリスカにはしってしまった。
別に死にたくてやったわけじゃない。
ほんとに何となく、だった。
何となくやってみただけ。
けどそれは予想以上の快感をもたらした。
腕を切るとしばらくして血が出てくる。
それを眺めていると何とも言えない快感に襲われる。
血が、痛みが、そのままわたしのなかのもやもやを流してくれるみたいですっきりした。
だけどそれがよくないことだとは自分が一番わかっている。
だから次の日、自分の腕にある傷跡をみて後悔の念に苛まれる。
だけどやめられない。
負のスパイラルに入ってしまった。
わたしがそれをやめたのは単純だ。
先生にバレたから。
正確に言うと友達にバレて友達が先生に言ったのだ。
別にそのことで友達を恨んだりなんてしない、ただ先生に呼ばれて理由を聞かれてめんどくさいと思っただけだ。
なにか悩みがあるのか、とかそんなくだらない質問。
別に死にたいほど思い悩んでいるわけでもないし適当に言い訳して早々にその先生から逃れた。
ここで思ったことは先生にバレたことより親に知られないかという事だけだった。
親にバレたら余計な心配をされる、親の中の優秀で手のかからない私というものが崩れてしまう。
それだけは避けたかった。
父親はわたしの事を優秀な子だと思っている。
まさか授業を途中で抜けだしたり学校をさぼったりなんて夢にも思っていないだろう。
それもそのはず。
わたしは当然の事ながら父親に学校の話などしない。
成績表も出さない。出欠が書いてあるから。
親に見せるのはテストの点と順位表だけ。
それだけ見せればわたしが優秀であることを証明できる。
だから今回の事を親に話されるわけにはいかなかった。
幸い先生は父親になにか話した様子はない。
そのことにほっとしつつももう少し気を付けようと思った。
もうこの時点で父親や兄はわたしにとって家族ではなかった。
血のつながった他人。
それ以上でもそれ以下でもない。
血がつながっていようが家族の時間や絆というものがない以上ただの他人だ。
だから父親に対して何かを期待することも頼るつもりも毛頭なかった。
自分のことは自分で決めるし自分のことは自分でする。
だから高校も専門も就職先も相談することなく一人で決めた。
全て事後報告だった。
そのことに対して父親が何か言う事もなかった。
この時点で私が家族を他人だと思うように父親も私に対して興味がないんだっていうことを理解した。
だからもうなにもかもがどうでもよかった。
ただひたすら、早く家をでたいと、そう思った。
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