第25話備え

「よし!では行くか。」

先輩の準備が整ったようである。

大きなリュックサックを背負っている。ものすごく重そうだ。

「そのリュック大きすぎませんか?」

「お前が身軽すぎるだけだ。」


大型エレベーターに乗って地上に出る。

ガッシャーン

アアアアアッ!

外に出るといきなり、ガラスが割れる音や人の叫び声が耳に飛び込んできた。

「先輩。なんか騒がしくないですか?」

「そうだな。本来私の家の周辺は、結構静かなはずなんだが...。」

先輩の家の周辺には住宅が一軒も建っておらず、空き地が広がっている。人の声が聞こえてくる事自体、あまりなさそうだ。

「....慎重に進むぞ。やばそうな雰囲気を感じる。」


20分間ぐらい歩くと、住宅街が見えてきた。


だが様子がおかしい。

所々、家の窓ガラスが割れていたり、標識が外れていたりしていて、街全体が荒れている。

先輩は、道でポイ捨てされている空き缶を蹴りながら吐き捨てた。

「ちっ....。これもアイツの仕業か!」


ウーッ。ウーッ。

突然うめき声が聞こえてきた。

「あっちから声がします。助けにいかないと!」

「おい!ちょっと待て!」

声がする方へと急いで向かう。

あの曲がり角を曲がった先だ!

しかし、角を曲がった先に広がる光景は信じられないものだった。


たくさんの人たちが......殺し合っていたのだ。

果物ナイフで切りつけあっている人達もいれば、ゴルフクラブで殴っている人もいる。

あまりにもむごすぎて、言葉が出ない。

「はぁはぁ。いきなり走るな!もし罠だったらどうするん......だ.....。」

後から来た先輩もその凄惨な光景を目の前にして、言葉を失う。

「ハッ.....!逃げないと!先輩!しっかりしてください。」

我に返った俺は、強く呼びかける。

だが先輩は恐怖によって支配されており、放心状態だ。

俺たちに気づいた男が、走って近づいてくる。

目が血走っていて殺気がすさまじい。

咄嗟に先輩をかばう。

びびりすぎて目を開けられない。

男は、右手に持っているナイフを振り上げて、それを俺の背中に突き立て――。

あれ?

痛くない。

刺されていないのか。

どうなってんだ?

目を開けると、俺を殺そうとしていた男はいなくなっていた。それどころか、さっきまで殺し合いをしていた人たちもいつのまにか消えている。荒れていた街も平穏を取り戻し、いつもの日常の風景が広がっていた。


ひとまず近くの公園のベンチに座り、休憩をとる。

「あれは、なんだったんでしょうね?」

「おそらく、クアが私たちに幻覚を見せたんだろう。........ふざけやがって。」

確かにふざけてはいるが、あれが現実で起きたことじゃなくて良かった。


「あの....。先輩。そういえば、俺なにも武器持っていません。」

さっきの危機を体験して分かったが、武器がないとすぐに死ぬ。

クアには通用しないとは思うが、一応鉄の棒とかでも持ってくるべきだったかもな。

持っとくだけでも心強いし。

「仕方がないな。じゃあこれを貸してやる。」

先輩から小さな白いボールみたいなものを手渡される。

「これ....。なんですか?」

「そいつの名は”レーザーボム”。人間は多少けがをする程度(まあ運が悪ければ死ぬ威力)だが、霊体には効果抜群の威力を発揮する代物だ。いざというときはそれを使って自爆しろ。」

そんな物騒なことをできるわけないだろ。

冗談にもほどがある。

「ほ、他にはなにかないんですか?」

「ない。」

まじか。

俺、役にたたないんじゃないか?

だって攻撃手段自爆しかないんだぞ!?

「休憩は終わりだ。早く行くぞ。」

俺の焦りをよそに先輩は、スタスタと歩いて行ってしまった。

「はぁ。やるしかないな。」

そう小さな声でつぶやき、先輩の後を追う。


















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