第21話願い
いったいなんだったんだ?今のは。
「君が今見たものは、生きている人じゃない。....もう既に亡くなっている人だよ。」
「死んだ人....ですか。」
さっきの人が死んでいただと?
「ああいう風に霊体が彷徨うような現象が、ここでは起こるんだ。毎晩、彼らの助けを求める声がここから聞こえてくる。ずっとそんな声を聞いていると頭がおかしくなりそうだから、さっき君がしたみたいに消していってるんだ。」
「俺が....消した?」
「彼らは、生前成し遂げられなかった願いを糧にして存在しているんだ。だからその願いが叶ってしまうと消える....。さっき君が見た霊体の願いは恐らく、”他者からの助け”だったんだと思う。だから、君から助けられたさっきの霊体は消えてしまったんだよ。」
あの地下室の怪物も、俺を殺しかけたクアって奴も生前願いを果たせなかった霊体なのだろうか。
「ここにいると気分が悪くなる....。一旦、私の部屋に戻ろうか。」
「そう...ですね。」
榊原さんの寝室に戻り、椅子に腰を掛ける。紅茶はすでに冷たくなっていた。
「また、紅茶を入れ直そうか?」
「いや、いいです。......それよりも、周りの人の記憶が、おかしくなってしまっている原因を教えてほしいのですが.....。」
「結論から言えば、ある2体の霊体による願望が、彼らの体内の中から発せられる磁場の乱れと反応を起こして人々の記憶を作り変えているんだ。」
そんなことが可能なのか?だがそれが本当のことだとするのなら、その原因である霊体の願いを叶えてやって存在を消してしまえば、全て解決するということになるんじゃなかろうか。
「その原因となる霊体の願いを叶えてやればいいってことですね。」
「そういうことだ。だけど、その霊体は少し他の霊体とは違うみたいなんだ。ご丁寧に名前までつけられている。」
「名前?」
「教授が直接作った霊体らしいんだよ。個体番号2090E01...通称クアというやつと個体番号2090E00...通称トリカブトというやつの2体だ。」
「クアって....!アイツか!」
「会ったことあるの!?よく無事だったね。」
「無事だったっていうか、胸を刺されたんですけど、なぜか傷がなくなっていて....。」
「胸をさされた....?....ちょっと見せてもらえるかな?」
「どう、ですかね?」
至近距離で真剣にじーっと見てくるので、さすがに恥ずかしい。
「確かに傷はないね。本当に刺されたのかい?」
「自分でもよく分からないんですよね。」
「触ってもいいかな?」
「ど、どうぞ...。」
スリスリスリ。
「あの....。まだ終わらないんですか?」
「あと少しだから、もうちょっと我慢してね。」
スリスリスリ。
くっ。いろいろな意味で我慢の限界になりそうなのだが....。
ガチャリ(扉の開く音)。
「しずえ。お菓子あるけどいるか?」
理蟹先輩の声だ!やばい!この状況を見られたら完全に勘違いされる。
「先輩!今入ってきちゃだめ....です。」
だが俺の引き留めもむなしく、先輩はすでに部屋の中に入っていた。
「お、お前ら.....なにやってんだ!!」
「お、レン!ありがとう。そこにお菓子おいといてくれ。」
榊原さんは普段と変わらないような感じで話す。
「ごまかすな!しずえ!なにを、やってたんだ!?」
先輩は真っ赤な顔になりながら、激昂する。
「なに怒ってんの?仕方がないなー。レンも一緒にする?」
「しずえ!なに言ってんだ!い、一緒にってそんなこと....。」
やばい。これは明らかに誤解されている。なんとかしないと!
「違うんですよ。先輩。これは胸の傷の検査です!」
「じゃ、じゃまして悪かったな。」
「いやだから検査ですって!!」
バタン(扉の閉まる音)。
聞けよぉぉぉぉ!!!!!
「あの。しずえさん。なんてことしてくれたんですか!!これじゃあ、変態のレッテルをまた貼られてしまうじゃないですか!」
「ごめん。ごめん。ちょっとレンの反応がおもしろくてね...。」
「もう話はいいですか?誤解をとかないといけないんで....。」
「行ってらっしゃい。」
部屋から勢いよく飛び出して、猛ダッシュで先輩を追いかける。
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