第20話原因
「旨い!旨いぞ!特にこのシチューがもの凄く旨い!」
富田。榊原さんに感謝しろよ。お前が旨いと言っているシチューはさっきまで、塩が致死量入ってるんじゃないか?ってぐらいの味だったんだぞ。それがここまで旨くなるなんて奇跡だろ...。
「フン!それは私が作ったんだ。おいしいに決まってる!」
理蟹先輩は自分の料理が褒められてごきげんなようだ(正しくは俺と榊原さんと先輩の料理なのだが)。なんだか先輩をだましているようで、心が痛む。
「確かに!このシチュー、おいしいですね。ピリッと後から来るスパイスは唐辛子ですか?」
間遠先輩が訪ねる。
「そうだ!よく分かったな。味にアクセントを出すために、隠し味として入れといたんだ。」
あれが隠し味?むしろ主人公格には入れそうなぐらいの存在感があったんだが。
「こんなに賑やかな食事は久しぶりだね。レン。」
「...ああそうだな。いつも二人しかいないからな。」
こんなに広い家の中に二人だけってなんかさびしいな。まあ俺も一人暮らしだから、あんまり変わらないか。
賑やかな食事はいつもより、おいしく感じる。
「また相棒と一緒に来るんで、ご飯用意しといてください!」
「富田君って結構図々しいね。まあそこが君の良いところでもあるんだろうけど....。」
さすがの榊原さんもあきれ顔である。なんか申し訳ないな。
食事の後、俺は榊原さんから寝室に来るように言われていたので、急いで行く。何の用なのだろうか?寝室で人前では話せない話をする.....。やばい。無茶苦茶気になるな。
「ここが、榊原さんの寝室...。」
ゴクリ。
コンッ。コンッ。コンッ。(扉をノックする音)
「し、しつれいします!」
「おっ!早かったね。そこの椅子に掛けといて。今紅茶をいれているから、ちょっと待っといてね。」
部屋の中は寝室というより、書斎って感じがする。無数の本が並んでいて部屋の大部分を埋め尽くしてはいるが、なぜか散らかっているという印象は受けない。
コポコポコポッ。
カップに紅茶を注ぐ音が響く。
「はい。どうぞ。」
「ありがとうございます。」
ゴクッ。ゴクッ。
脳に優しい香りがしみこんできて緊張がほぐれていくような気がする。
「俺に話ってなんですか?」
「君も薄々気づいているだろうけど、周りの人たちの記憶に齟齬が障じている。原因は何だと思う?」
「磁場の乱れですか?」
「うーん。半分正解といったところかな...。磁場の乱れだけでは、こんなことにはならない。....ちょっとついてきてくれるかな。」
榊原さんの後を追う。本棚の前まで来ると、いきなり半回転して隠しとびらが出現した。
「この部屋なんで隠してあるんですか?」
「入れば分かる。」
「ここは.....。墓地?」
目の前には数え切れないほどの棺がある。
「そうだよ。この部屋は死者を弔う部屋....。」
「なんで....。こんなところに墓地が....。」
「もともと、この建物はレンの父親....理蟹教授の研究施設だったんだ。ここに埋葬されている死体は恐らく、被験者たちのものなんだろう。」
先輩の父親が本当に殺人鬼だったとは....。しかもこんなに多くの人たちを....。
「最初この部屋を見たときは....本当に驚いたよ。優しいと思っていた教授がまさか裏では人殺しをいとわない人間だったとはね。まったく気づかなかったよ。」
ペタッ。ペタッ。
なんだこの音は。
目を凝らすと奥に人らしき影が見えた。
【ク、苦しい!助けて!】
まだ、生きている人がいるのか?助けないと!
急いでそばまで行って、抱きかかえる。
「大丈夫か!?ってあれ?」
助けを求めていた人の姿は消えていってしまった。
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