第14話たまねぎ
先輩だって一人の人間だ。今まで気丈に振る舞っていたが、あれは無理をしていたのだろう。
そりゃそうだ。自分の父は自殺しており、その父が人の命を弄んだ殺人鬼なのかもしれないという意味不明なことをいきなり言われたら、気が動転するに決まっている。
なにか気が利いた言葉をかけなくては。
「先輩、大丈夫ですか?悲しいときは思いっきり泣いていいんですよ。」
大丈夫じゃないに決まってるだろ。言うべき言葉が見つからない自分に嫌気がさす。
「なんか腹立つな。この涙は別に悲しいから出しているわけじゃないんだが。」
涙を拭いて俺の顔をにらみつけてきた。
「えっ?じゃあなんで涙が。」
「タマネギを切っているときと同じような現象が、起きているだけだ。」
紛らわしいな!ていうかなんで部室の中でタマネギ切ってんだよ。
「なんか、料理でもしているんですか?」
理蟹先輩の周りを見てみても調理器具などは見当たらない。
「学校の部室で調理するやつがいるわけないだろう!私だってそのくらいの常識はあるさ。」
自分が非常識側の人間であることには自覚があるようだ。
「タマネギを切った時に涙を出させる物質、硫化アリルを使った実験をしているんだ。」
先輩の口の端がつり上がる。
「この物質はな、揮発性がある上に燃えやすい。こいつとニトログリセリンをうまく組み合わせて爆弾を作成しているんだ。」
爆弾?先輩はやばい人とは思っていたがまさかここまでとは...。
「なぜ爆弾を?危ないですよ!」
「あの地下室の奥の部屋以外は扉の鍵が、しまっていて入れなかった。だから明日その扉を全部ぶっ壊して中を調べるために作る。」
「いや!ピッキングとか他に方法はないんですか?」
「扉には鍵穴が付いていなかった。恐らくあの大きなコンピュータが、全ての部屋の施錠を管理していたのだろう。だがそいつのデータも消しとんでしまった。もうこれは仕様がない。あの扉自体を破壊するしかないと言うわけだ。」
たしかに理にかなっているとは思うのだが...。
「もう警察に任せるとかした方が、良いんじゃないんですか?」
一応提案してみる。
「何を言っている!?私たちが見つけたせっかくの研究材料を、奪われてしまうじゃないか?」
ですよね...。
「ところでなぜお前は部室に戻ってきたんだ?」
そうだ財布!すっかり忘れていた。
机の上に置いてあった財布をバックにしまう。
「これで用は済んだのか?」
「そうですね。では先輩。おつかれさまでした。」
「ああ。また明日な。」
ドアを開けて部屋を出る。
「ちょっと待て!言い忘れたことが、あった。」
先輩が顔を赤くしながら、追いかけてきた。
「その、なんだ。心配してくれてありがとな。じゃあな。」
そういうと俺の返事を待つ間もなく、部室へ戻っていった。
明日先輩は爆弾を爆破させると言っていたが、大丈夫なのだろうか?爆発が強すぎて町ごと破壊してジ-エンドなんてやめてほしいのだが...。不安を抱きながら、自宅への路を歩く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます