第10話記憶の喪失
赤黒い物体はブツブツつぶやいている。
『ハラヘッタ。クッテヤル。ハラヘッタ。クッテヤル。ハラヘッタ。クッテヤル。』
「こ、こいつは何なんだ。」
さすがの理蟹先輩もビビっている。俺と富田ももちろんビビっている。
間遠先輩はバックを開けて、なぜか塩をとりだしている。そしてその塩を容赦なく、赤黒い物体にぶっかけた。
「僕はね!こういうときのために、いつも塩を携帯してるんですよ!こいつがなんなのか知らないですが、悪霊の類いだろうから塩が効くはずです!弱ったところを捕獲しましょう。」
間遠先輩は興奮しながら、そんなことを言う。
この部の中で一番まともだと思っていた人が、いま一番危なそうな人の表情をしている。まあ類は友を呼ぶというしな。
だが確かにあいつは霊体だ(手帳によれば)。効くかもしれない。
そんな俺の期待は一瞬で裏切られた。
塩に埋もれていた赤黒い物体はだんだん大きくなっていき、大きな声ではっきりと
『コロス。コロス。コロス。コロス。コロス。コロス。コロス。コロス。コロス。コロス。』
と洒落にならないことを言っている。
「お、おい馬鹿!弱るどころか怒らせてしまって、もっと危ない感じになっているぞ。」
「理蟹さん!研究が一歩進みましたよ。悪霊には塩は効かない...メモしないとですね!」
「そんなこと言っている場合じゃねぇ!撤収だ!お前ら!出口まで走れ!」
俺たちは急いで出口に向かい、すぐに扉をしめて学校の部室まで全速力フルマラソンをした。
「ハァハァ。私は...あんなもの...見たことねぇぞ。」
「はぁ...。もっと調べたかった...。」
「相棒。もう疲れて動けねぇ。」
こんなに走ったのは二日ぶりだ。疲れた。
少しここで休憩した後、帰るか。
そういえば、手帳の内容をみんなに言うべきだろうか?まあ言うにしても、名前は伏せないとだろうな。などと考えていると
「お前の手帳、今から読ませてもらう。」
という理蟹先輩の声がした。
先輩の方を見てみると、あの手帳を開こうとしていた。
あ、やばい!俺は開くのを止めようとするが、富田から動きを封じられてしまう。
「おっとやらせないぜ!隠し事はだめだと思うぞ!」
などと言いながら、ニヤニヤしている。
お前、さっき疲れたとか動けないとか言ってなかったっけ?
俺は観念して全部、読ませることにした。
「ある科学者の人体実験の記録か。それに私の名前と同じ恋っていう奴が出てくるな。そして私と同じ名字を持つ男の名前が、手帳の裏に書かれている。この男の名前に見覚えはない。だがここまで一致していて、私と全く関わりがないなんてことはないだろう。理蟹なんて名字が、そんなに多くいるはずないしな。それにな....。」
一瞬うつむきながら、理蟹先輩は言う。
「私には父親に関する記憶がなくなっているんだ。」
俺はためらいながら質問する。
「幼いころに父親が亡くなったんですか?」
「いや、違う。父親に関する記憶が”なくなった”んだ。つい最近まで覚えていたということは、記憶しているのだが...。」
これも磁場の乱れが、引き起こしたことなのであろうか?
「そのことの調査もかねて、明日またあの場所を探索しようと思う。各自、武装してきてくれ。では、解散。」
結局俺から発生する磁場の正体を突き止めるには至らなかった。それどころか、謎がたくさん出てきた。
「はぁ。」
脳に入ってきた情報量が多くて、めまいがしてきた。
それにしても、明日の武装どうすればいいんだ?富田はエアガンもってくるとか言ってたけど、どう考えても物理攻撃きかねぇよな。
ま、考えてもどうにもならない。明日は学校だ。早く寝よう。
無理矢理自分にそう言い聞かせながら、眠りにつく。
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