第20話【複利計算】

 トンヌラに材料を渡してから三日後、俺は再びアトリエを訪れた。

 作ってもらう武器の詳細はまだ聞いていない。


 待っている間に、残る三つのうち、一つのダンジョンが攻略されてしまった。

 なんとプレイヤーはジェシーのパーティだ。


 俺は読んでないが、掲示板には残り二つの攻略も目指していると本人から書き込みがあったらしい。

 ご丁寧に「ショーニン」つまり俺の事はチートだと名指しの批判をしてくれたとか。


「とにかく今のままじゃ俺が先にクリアってのも難しそうだしな。頼むぜトンヌラ。いい武器作ってくれてろよ!」


 祈るように俺はアトリエの扉を開く。

 中には俺を待ち構えていたのか、仁王立ちのトンヌラがいた。


「おう。来たな。待ってたぞ。まぁ座れ」

「それよりも早く武器の説明をしてくれ。どういう効果があるんだ?」


「まぁ、焦るな。少し説明が長くなるからな。間違いなく恐ろしいほどの火力が出るぞ。この武器は」


 焦れったいが、ひとまず言うことを聞いた方が早く話が進みそうだ。

 俺は床に置いてある丸椅子に腰を下ろした。


「ひとまずできたもんを先に渡しておく。金は説明が終わってからでいい」

「ああ。分かった」


 トンヌラから受け取った武器を早速確認する。

 見た目は紙、これを武器って言えるのか?


【高利貸しの借用書(カスタマイズ)】

悪徳商人が発行する借用書。

物攻:10、魔攻:10

効果:ダメージ35%上昇、貫通付与、「商人」専用スキル「複利計算」を取得


 なんだこれ?

 物攻、魔攻はどうでもいいって言ったから数値はいいとして、ダメージ35%上昇?


 知識で増えるが大した数値じゃない。他のスキルの効果も合わせてもたかがしれている。

 貫通ってのはよく分からないけど、名前からしてダメージを上げる効果じゃなさそうだ。


 いや、待てよ?

 スキル「複利計算」ってもしかして?


 俺は慌てて装備によって手に入れた「複利計算」の詳細を開く。

 そこには恐ろしいことが書かれていた。


【複利計算】

使用中は重ねがけの効果が複利で計算される。

 

「あっはっは。その顔はすでにこの武器の凄さが分かったってことかな? やべぇだろ。まさにぶっ壊れスキルだ」

「ああ。これを考えたやつは頭がおかしいな。しかし、使えるものはなんでも使わせてもらうよ」


 試しに俺は「複利計算」を使ってみる。

 すると予想通りとんでもないことが起こった。


 今付けている装飾品のうち三つは「ブレインシーカー」その効果は知識100%上昇。

 知識の効果が無ければ単純に300%上昇、つまり4倍だ。


 しかし「複利計算」を使っている間は上昇分が文字通り複利になる。

 つまり三つ装備すると8倍になる。


 実際は知識による効率上昇も合わさって、さらに元々は微々たる量だった「覇王の冠」の10%上昇分もかなりの効果に激変する。

 今の俺の知識は驚くことに6500を超えた。これだけでもやばい。


 モンスターがいないから試せないが、ダメージ上昇も当然複利になるんだろう。

 今の俺の上昇系スキルはモンスターの種族によるが最大で六つ、武器の効果も含めると合計で七つだ。


 細かい計算は置いておくが、約66倍、さらに「隼のグローブ」の効果で130倍近くに跳ね上がる。

 俺はすぐにでも試したくなって、立ち上がろうとした。


「おいおい。説明がまだだぞ。せっかちだな。ダメージの方は既に理解してるみたいだが、雑魚モンスターへの複数攻撃の方は理解したのか?」

「お。すまんすまん。そういえばそうだったな。この『貫通付与』ってのがそれなのか?」


「そうだ。貫通付与された攻撃は単体攻撃スキルでもその射程距離内のモンスター全部にダメージが乗る。つまり攻撃の軌道上にモンスターを上手く並べれば、複数の攻撃が可能って訳だ」

「なるほど! ちょうどいいスキルがあるかモンスターを一箇所にまとめるのは簡単だ。これで雑魚モンスターも手数少なく倒せるな」


 俺は予定の支払いの倍の金をトンヌラに渡すと、意気揚々といつも通りロックビートルがいる狩場に向かった。

 さっき使った「複利計算」の効果は1分、クールタイムは10分だ。


 既に「ロックハートペンダント」は外してあるから狩場に着いてすぐにスキルは使えるようになっていた。


「やっぱり、そろそろこのペンダントとともお別れだな。試し撃ちが終わったらオークションでも覗いてみるか」


 目の前のロックビートルに向かって「複利計算」を使った直後に「銭投げ」を上限の10万ジルで使う。

 コインが現れロックビートルに向かって真っ直ぐに飛んでいく。


 ロックビートルにぶつかったコインは予想に反してすぐに消えてしまった。

 ダメージは予想通り、「貫通」の効果が出てないように見える。


「あれ? おかしいな。俺の理解が間違ってるのか?」


 試しにもう一度「銭投げ」を使う。

 ダメージ上昇に間違いがないことを確認したから、次は節約した金額だ。


 二度目もコインはロックビートルに当たるとすぐに消えてしまった。

 もっと距離のあるモンスターにも使った記憶があるから射程距離ギリギリだとは思えないが。


 三度目の正直を信じてもう一度だけ「銭投げ」を使う。

 今度は少し離れた場所にいるロックビートルにしてみた。


 今まで何度も見てきたようにコインは狙ったロックビートルに向かって真っ直ぐに飛んでいく。

 すると、たまたま別のモンスターがその前に移動してきた。


「あ、なるほど!」


 俺は思わず声を上げる。

 コインは不幸にも軌道に乗ったモンスターを蹴散らした後、狙ったロックビートルに当たって消える。


 つまり「銭投げ」の射程距離というのは、俺から狙った魔物までってことだ。

 そうならば、確かめないといけないことがある。


 どこまで遠くのモンスターまで「銭投げ」が使えるか、だ。

 俺は出来るだけ遠くにいるモンスターに向かって「銭投げ」を使ってみた。


 驚くことに「銭投げ」はきちんと発動し、その間にいるモンスター全てをポリゴンに変えながら、コインは目的のモンスターも倒した。


「これはすごいな……あ、間違ってプレイヤーを巻き込まないように気をつけないとな。まさかずっと遠くから流れ弾が飛んでくるなんて思わないだろうし」


 緊急メンテナンスとかいう改悪に沈んでいた俺の心は嘘のように晴れ渡った。

 俺はトンヌラを紹介してくれたヒミコ、直接居場所を教えてくれたミーシャにそれぞれ感謝のメッセージを送り、オークション会場へ向かった。


☆☆☆


蛇足説明

計算とか気になる方へ


ここはインフィニティ・オンラインの非公認攻略サイト

有志のプレイヤーが日々色々な情報をアップロードしてくれているよ


〜知識による効率上昇〜

知識/100(端数切捨て)×10%分、装備やスキルの効果が上昇する

例:知識120の時に魔攻上昇20%を装備した場合

120/100=1.2 端数切捨てで 1 つまり10%

20%×110%=22%に効果が増加する


補足

知識120の時に知識上昇20%を装備した場合は

まず上昇割合の20%が知識の効果で22%に増加、その後に120の知識が増加する

知識120×122%=146(端数切捨て)


〜複数装備の上昇率計算〜

複数の上昇スキルや装備を持っている時の計算は以下の通り

数値上昇の和を基本ステータスに付与、その後、割合上昇の和分上昇する

例:裸で物攻100が物攻50上昇×2、物攻10%上昇×3を装備した場合

(100+50×2)×130%=260

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