第21話【ダンジョン攻略-3-1】

 見渡す限りの銀世界。

 その視界も吹き荒れる吹雪によって遮られる。


 ここは未攻略ダンジョンの一つ「アーカディア霊峰」だ。

 もちろん俺がそんな場所にいる理由は一つしかない。


「参ったな。こんなに視界が悪いんじゃ、『銭投げ』使う時気をつけないとな」


 俺はスキル「金に物を言わせる」に集まったモンスターの群れに「銭投げ」を放ちながら独り言を言う。

 「貫通」の付与されたコインはモンスターの集団を撃ち抜き、一番奥のモンスターに当たった後消える。


 ここのモンスターは精霊系や獣系、そして鳥系が多い。

 残念なことに今まであまり狩ってこなかったタイプだ。


「霊峰って言うからにはボスは精霊系かな? 参ったな。スキルひとつも持ってないタイプだ。ひとまず狩り続けるか」


 ボスモンスターのHPがいくらか分からないが、今の俺は出来るだけ複数の上昇があった方が有利だからな。

 レベルも上がって一石二鳥だ。


 ちなみに、「ロックハートペンダント」はいまだに装備したままだ。

 クールタイム10倍は正直痛いが、探してもこの装飾品ほど物防も魔防も上がるものは見つからなかった。


 知識極振りの俺は生半可な防御力では生き残れない。

 装備全体の変更をすれば別だろうが、ヒミコに作ってもらった装備にも愛着がある。


「お、今のでやっと『精霊の敵』が手に入ったな。先は長いが頑張るか」


 改悪のせいで「銭投げ」は10秒に一度しか撃てなくなったが、一度に数十匹まとめて倒せるから苦ではなかった。

 集めたモンスターがいなくなったので、俺は別の場所へ移動を始めた。


「うん? 誰か入ってきたみたいだな。ダメだな。何か喋っているが風が強すぎて声は聞こえないし、吹雪のせいでよく見えない」


 何となく悪い予感がして、近づきダンジョンに入ってきたパーティのメンバーを確認する。

 向こうはまだ俺には気付いていないみたいだ。


「くそ! やっぱりあいつか。これは悠長に雑魚狩ってる場合じゃないな」


 パーティのリーダーっぽい男、服装は違うが俺はこの男を知っていた。

 念の為、頭の上に情報に目を向ける。間違いない。


「いいか? ここは長時間いると状態異常『凍傷』を受けるからな。雑魚は基本無視、ボスだけ目指してまっすぐ進むぞ」

「了解。ジェシーさん。まぁ、最悪状態異常になったら俺の『キュア』で一発だし」


「ばっかねぇ。文彦は。『凍傷』になったら速度が移動もスキルも10分の1になるのよ? モンスターに囲まれてる時になったらやばいでしょ」

「うっさいなぁ。サンドラは黙っててよ。そんなの僕知ってるし。サンドラにはかけてあげないからね」


「無駄口してる暇があったら進むぞ。既にフィールド効果は出てるんだからな」

「はーい。ほら、サンドラのせいで怒られちゃったじゃん」


 俺がネタ職業と笑われる「商人」を選んでプレイをする原因となった張本人。

 ジェシーと愉快な仲間たちだ。


 ちなみにジェシーの職業は「騎士」、戦闘職の中でも近接系で攻守ともにバランスのとれた人気職業らしい。

 ちくしょう、ネタとは真逆のガチガチの王道じゃねぇか。


 他のメンバーも順に見ていく。

 少年のような見た目をした文彦って男は「神官」、グラマラスな体型のつり目美女のサンドラは「魔導師」だ。


 後の三人は、ここからだと上手く見えない。

 いや、じっくり見てる場合じゃないな。


「あいつらはボス一直線かよ。下手したら先を越されるか。しょうがない、予定を変更して今すぐ俺も向かおう」


 俺は振り返り、全速力でボスがいると思われる山頂を目指した。

 ちなみに、走る行為はゲームっぽく、スタミナバーが徐々に減っていき、切れると走れなくなる仕様だ。


 もしかしたらステータスの体力を上げるとスタミナも増えるのかもしれないが、初期値の俺は走るとすぐに切れてしまう。

 今まで気にしたことがなかったが、やっかいだな。


「やっと着いたか……」


 何度も走ったり歩いたりを繰り返し、ようやく俺は山頂にたどり着いた。

 今までの吹雪は嘘のように消え、照りつける日差しに降り積もった雪がキラキラと輝く。


「きれいだな……でも何も無いし、何もいないな。まさか、ここじゃないのか!?」


 慌てて引き返そうとした俺の背後で山の一部だと思っていた巨大な雪の塊が、地響きを立てながら動き出した。

 その塊はあまりにも巨大で高かったせいで気付けなかったが、きちんと上にモンスターの情報が表示されている。


「マジかよ……よりによって相性最悪の敵じゃねぇか……」


 ボスモンスターの名前は「マザースライム」、HPはなんと3000万!

 その代わり物防も魔防も0だ。


 防御が低い、プレイヤーの言葉では柔らかい代わりに、HPが多いモンスターは雑魚モンスターでもいる。

 それの最たるモンスターって訳か。


 しかも種族は予想通り精霊系、さっき一つスキルを取っただけのやつだ。

 「複利計算」を使って攻撃しても効果の切れる1分までの間、つまり6回攻撃しても10分の1くらいしか減らない。


「しょうがない。外すしかないか。念の為飲んでおくかな」


 俺は「秘薬アムリタ」を取り出し、一気に飲み干した。

 見た目の割に味はジュースのようで飲みやすい。


 これはダンジョンに挑む前に「薬師」であるミーシャから購入したものだ。

 効果は「一度だけ死んでも蘇る」という優れもの。


 ただし、事前に飲んでおかないといけないし、飲んでからの効果は一時間だ。

 もちろん飲んだら死のうが死ななかろうが無くなる。


 値段も効果に見合った金額だし、残念なことに一日一回の使用制限まである。

 だが、これからやることの保険で必要だった。


「うわ。こいつ、子供産むのかよ。まさにマザーだな」


 俺が準備をしている間に、マザースライムは細胞分裂みたいに、身体から小さいスライムを発生させている。

 小さいと言ってもマザースライムから見たらという話で、人の大きさくらいある。


 次々と生まれるスライムは俺の方に向かってくる。

 厄介なことにこいつらも防御が0だが、HPが高い。


「ひとまず安全のために、お前らはあっちに行ってろ!」


 俺はスライムの向かう先を変えるために、持続時間を長めに設定した「金に物を言わせる」を少し離れた場所に使う。


「あれ? 反応しないな。こいつら音には反応しないタイプか」


 設置したコインに目もくれずスライムは向かってくる。

 俺は今度は「金の匂い」を同じように使う。


「くそっ! こいつら耳だけじゃなく鼻もないのか! って見りゃ分かるな。熱感知系ってことか」


 モンスターによってプレイヤーを見つける手段は三種類、音、臭い、熱だ。

 三つ全てに反応するやつもいれば、どれか一つだけの場合もある。


 「金に物を言わせる」は音感知、「金の匂い」は臭い感知を持つモンスターを集める効果がある。

 残念なことに熱感知のモンスターを集めるスキルは覚えていない。


「逃げながらボスを攻撃するしかないか。ひとまず、外すぞ」


 俺はクールタイム10倍の足枷をなくすために「ロックハートペンダント」を外した。

 代わりに「魔神の指輪」を装備する。


 これで「銭投げ」は1秒間に1回、「複利計算」が切れるまでに60回攻撃できることになる。

 それでもギリギリ3000万には足りないはずだ。


 最後は一か八か「ヘルフレイム」をお見舞する予定だ。

 知識によって魔攻も上昇するから、かなりのダメージが期待できるはずだ。


「まぁ、それでダメだったら残りはちまちま当ててくしかないか」


 準備が全部整った俺は、「複利計算」を使う。

 すぐにマザースライム目掛けて「銭投げ」を上限の10万ジルで使い始めた。


「ダメージは50万近く当たってるのに、バーは全然減ってかないな。まぁ撃ち続けるしかないか。っておい! 追い付かれたのか!」


 攻撃を始めたのと同時にジェシー達のパーティが現れた。

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