現実的学生生活

 夏。中学一年生の夏。


 僕がブラックコーヒーを飲んでいることは、まだ誰にも知られていなかった。

 そして、僕はめっきりブラックコーヒーを飲まなくなった。

 理由は至ってシンプル。美味しくない。コーラの方がずっと美味しい。百歩譲って、コーヒーを飲むにしても砂糖やミルクを入れた方が断然美味しい。そんな訳で、ブラックコーヒーを飲み続ける理由はもはや全くなかった。

 それともう一つ、僕のこの頃の心境を述べるならば、部活の柔道が全く楽しくない。


 柔道の先輩も、同期も、ほとんど小学生の頃からの経験者ばかり。何人かは中学から柔道を始めた人もいたが、みんな何かしらのスポーツ経験者で運動神経が良かったし、体も筋肉質でしっかりしていた。何よりみんな、負けん気が強かったり努力家だったりと、精神的にタフであった。

 僕はというと、特に何かのスポーツに打ち込んできた経験がないため、心身共に明らかに脆弱だった。


 中学生活において、部活というのはかなりのウェイトを占めている。

 なんなら部活が中学生活のメインの奴だって多い。

 そんな中で、僕は部活選びに失敗した。

 部活に失敗したらどうなるか。

「その分、勉強に集中しよう」

 …とはならない。

 部活でへし折られた心じゃ、勉強に集中なんてできやしない。

 授業は上の空だし、課題はやらないと怒られるから一応やるけど、いかに楽に終わらせるかだけを考えてこなしている。

 答えがついている課題なら答えを写すだけ、答えがないなら数少ない友達の中から、特にも真面目そうな奴の答えを見せてもらう。

 この時、あまりにも成績が優秀な奴の答えを写すと先生からバレるため、狙うのは俺より少し成績の良い奴。そいつの答えを全部写し、そのままだとやはりバレるため、意図的に何問か間違えてみたり、空欄にして出したりする。

 そうすれば、ちょうど自分の学力に見合ったオリジナルの解答が出来上がる。

 こういったなんの役にも立たない悪知恵ばかり身につけていった結果、僕の学力は信じられないスピードで落ちていった。

 そんな僕を見て、過保護気味だけど父親よりかは比較的教育熱心な母親がこう言ったんだ


「あんた、来週から塾に通うことになったから」


 僕の中学生活の、人生の歯車がギシギシと動き始めた。

 もっとも、当時の僕はそんなことに気付いていなかったけれども。

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