とある生徒の終幕 11

「感想を聞かせてよ。ライターさん」

ライターさん、か。

それが笹塚 瑠璃の皮肉だったとしても喜ぶ自分がいる。何もかも捨てたつもりだったのに描いた夢はまだ持っていた。ほんちゃんがいなければ意味のない夢なのに。

私はすぐにでも立ち上がって2人の勇姿の前に現れたかったが、嘔吐したばかりの体調がよろしくない。

これもまた変な話だ。私の身体はないのに死後の魂が体調不良になる。

口の周りについた唾液を腕で拭き取り、たれ幕の外へと出た。ステージ台に立つ私は静寂に戻った体育館を見おろす。

強大な花や茎・蔦が黒い泥になり、額を貫かれた桜尾 すみれは彼らの後ろで倒れている。

赤眼の男と笹塚 瑠璃によって彼女が撃たれるのは私のシナリオ通りだった。いくつかの誤算はあったが、大元の流れは変わっていない。

「これ返すわ」

口を開いたのは瑠璃だった。手帳を放り投げ、私はそれを受け取る。

佐矢 蛍の生徒手帳。確かに笹塚 瑠璃の下駄箱にこれを入れたのは私だ。

彼女たちとほんちゃんは関わり合っていない。しかし、事件のルーツにはほんちゃんがいる。あの悲劇なくして今回の事件は起きなかった。だから、この子の存在を教えたかった。何より、桜尾 すみれを悲劇のヒロインに仕立てたくなかった。

「よく、私だってわかったね」

意外だったのは笹塚 瑠璃が私の名前を言い当てたことだった。魂の定義を知っていたなら、演劇部と直接関わり合いもなく、生半可に生きている私よりも酷い仕打ちを受けて死んでしまったほんちゃんを疑うのが筋というものだろう。

「当てたのはカンダタよ。3月に死んでいるなら、すでに魂はハザマに流れているし、身体が意識不明でも魂は動ける。あたしがそうだったから」

「そういえば、階段から落ちて三日間寝ていたんだよね」

「あなたが従う先生のせいで地獄を彷徨ってたの。迷惑な話よ。能力があるって言うだけで狙われる。あなたも復讐ついでにあたしの魂を採るように言われたんでしょ。今すぐ輪廻に送ってやりたいところだけど、蝶男の情報を提供してくれたら許してあげてもいいわよ」

図太い性格をしているなぁ。私は先輩で、連続殺人犯だ。だというのに恐れ知らずの彼女は堂々と軽口を叩く。

この子のような強い精神があれば私もほんちゃんもあんな結末を迎えなかった。

「長野先生は恩人なんだ。裏切れない」

「自分が利用されていることがわかっていて言っているんだな」

カンダタと呼ばれた男が言う。私を責めている厳しい口調ではなかった。理解して寄り添うような声色。

「悪魔を恩人扱いするのは私だけだろうね。理解はしているよ。あの人にとって私は食料源でしかない。それでもいいんだ。こんな我が儘に付き合ってくれた」

「あら、これが見るに耐えないエゴイストの復讐劇だって自覚はあったのね」

思わず、吹き出してしまう。嘲笑とかではなく、本当におかしくて笑えてしまう。エゴイストの復讐劇、これほどこの劇に合うタイトルはない。

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