蜘蛛の脚 9
「調子はどうだい?舞台は順調?」
世間話でもするかのように光弥は話しかける。
「あれを引き出すのは成功しそうだが、通信が途切れたりしてね。操作がうまくいかないんだよ」
「故障?あっちに問題が?どんな?」
「それがね」
捕らえたあたしを忘れて2人は専門用語を交えた会話を始める。
蝶男の後ろではすみれに跨り、首を絞めるカンダタがいる。その近くには4人の演劇部員が折り重なっている。
世間話なんて表現をしたけれど、そんなのんびりとした日常会話には合わない背景ね。塊人の精神はどうかしている。
その反面、あたしは光弥が余計なこと言うんじゃないかと心配しながら策を練る。
ヒントになりそうなものはないかしら。2人の会話を聞いてもよくわからない。周囲にあるのは役に立たない生徒たち。蝶男には、黒い糸?
目を凝らしてみると蝶男の指には黒い糸が巻かれている。意識すると糸が見えるようになるのね。段々わかってきた。
10本の指すべてに黒い糸が巻かれていて上下左右と方向がバラバラに伸びている。そのうちの数本はカンダタに結ばれていた。
さっき、通信とか言っていたわね。もしかして、あたしが見えているのは回線みたいなもの?
カンダタは唾液を流して歯を食いしばる。右腕の肘はすみれの首に乗せて、左腕は地面につけて肘を曲げて伸ばしてを繰り返す。
あの状況、あたしも経験したわね。地獄の時、やっぱり蝶男が仕組んでいたのね。
でも、カンダタのポーズおかしいわね。体重を乗せて首を絞めようとしているみたいだけど、左腕が伸ばしたり曲げたりしているから首が絞めきれていない。
そのせいかすみれは声を荒らげて叫んでいる。あまりにもうるさいので何を言っているのかもわからない。
ついにカンダタが顔を上げた。泥と唾液で汚れた顔に黒蝶の模様はなく、赤い瞳ははっきりとあたしを捉えていた。
意識がある。だから、すみれを殺しきれないんだわ。黒い糸が回線みたいなものだとしたら。
頭の中で策が出来上がっていく。光弥に時間稼ぎを任せてよかった。
ここに来る前にいくつかの決め事を話し合っていた。
光弥が蝶男と話して、あたしが策を考える。時間稼ぎには他の要因もある。それは合図待ちだ。
清音とケイは機械室を回ってエネルギー供給を止めようとしている。プラネタリウムが停止すれば手首に巻かれた蔦の感触がなくなる。この蔦もあの装置で作られた夢だから。
これが合図になる。
「さて、君の要件をまだ聞いていなかったね」
長い会話を終了させて、蝶男の目線はあたしに向かう。
光弥があたしを捕まえたという
「用件も何もないわよ。あたしはこの馬鹿に無理矢理連れてこられたのよ」
「意外だね。ならすぐに逃げれるだろうに」
いろんな言い訳が浮かぶ。けれど、どれほど舌を動かしてもあたしたちの嘘を見透かされている気がする。
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