鬼ごっこ 8
「天の声はどこから聞こえてくるんだ?」
「天の?えっと、あれはスピーカーで放送室から流れています」
「放送室か。今時間は?」
「16:45です」
そこなら行ったことがある。首吊りがあった部屋だ。
「もしかして、行くつもりですか?」
「脱出するためにも主犯に会わないといけない」
「隠れていたほうが安全です。一緒にいて下さい」
「安全地帯があれば俺もそうしたい」
鬼の習性をカンダタはよく知っている。一時的に身を隠せても貪欲な奴らは必ず餌を見つける。しかも、1つの建物に鬼が3体だ。後の15分。カンダタはともかく清音は生きている。見捨てるわけにはいかない。
鍵をかけた部室の扉が強く3回叩かれた。2人は扉向こうにいるそれを危機かどうかと見定めようとする。
「誰かいるんでしょう!開けてお願い!」
それは生身の人の声であったが、警戒を解くものにはならない。なぜなら、声だけでは判断ができないからだ。
急に外が暗くなり、壁や床に薄気味悪い蔦・花が生えたのだ。人の声をした鬼が現れても不思議ではないのだ。
しかし、清音は違うようで立ち上がると鍵を開ける。
「大丈夫ですか?」
引き戸の向こうにいたのは本物の人間で血塗れになった女子部員が入ってくるとその場に座り込む。
「ありがとう。あなた、演劇部の人じゃないわね。ひとり?」
「え?」
その一言で清音はカンダタを見る。
カンダタと清音たちには境界線がある。それが生と死だ。カンダタたちは同じ地平に立っているが、この線は超えられない。カンダタが清音に触れられたのはどういうわけか境界線がなくなったからだ。
カンダタはそう解釈していた。しかし、逃げてきた女子部員にカンダタは見えていなかった。境界線が消えたというよりは曖昧になっているようだった。そこにあるのか、ないのかさえ朧げだ。
「そうだ、と答えたほうがいい」
清音は現場の理解もできず、戸惑っていたので少しでも混乱を解いておきたかった。
「えっと、そう、そうなんです」
「下の階で起こったことを聞いてもらえないか。あと桜尾 すみれについても」
清音が知り得なかったものを彼女は持っているかもしれない。カンダタは清音に代弁してもらう。清音は彼女を落ち着かせながら起こったことを説明させようと説得する。彼女は震えながらも話してくれた。
一連の怪事件により、3人のOBと敏腕の教師を亡くした演劇部は枕鬱な面持ちになり、また演劇部ばかり死んでいく現場に恐怖し、練習もままならなかった。
そこに心配して相談に乗ってくれたのが赴任したばかりの長野教師だった。心理士として訪れた彼は演劇部に1つの目標を与えた。それがなくなったOBや安斉先生に全国大会の優秀賞を弔いとして捧げてはどうかと言うものだ。今は亡き先輩や教師に最高の作品を最高の仕上がりで優秀賞を。そんな心理士の呼びかけで近頃噂になっている怪事件への恐怖もなくなっていた。
部活動は禁止されているのにも関わらず、部室に集まっていたのはそういった経緯からだった。その最中に起きたのがあの放送だ。放送中、桜尾 すみれに対して嘲りや罵倒をスピーカーに送った。それが本気だと思い知ったのはすぐ後の事だった。
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