鬼ごっこ 9
部室に3体の鬼が突如として現れたのだ。鬼が歩いて引き戸を潜る姿を見たものはいない。言葉通り、唐突に出現した。
その後はカンダタも清音も周知している通りだ。挟み撃ちにされた部員たちは鬼に食われて、なんとか逃げ出した人々は散り散りになり他の部室に身を隠していた。
カンダタと清音の所に逃げてきた女子部員もその1人であった。
「なんであたしたちなのよ!何もしていないのに!」
1つの話が終わった後、その部員は頭を抱えて叫ぶ。
急に取り乱したのでカンダタも対応が遅れる。
「大声はまずい。鬼が寄ってくる」
「鬼が来てしまいます。声は抑えてもらえませんか ?」
それには清音も慌てながらも女子部員の肩を撫でる。
「あ、ああ、ごめん。取り乱してしまって」
「無理もありませんよ。それで、すみれ先輩のことを聞かせてもらえませんか?」
「そうだったね」
女子部員は1つ深呼吸すると再び口を開く。しかし、その声は男子部員の叫び声で上乗せされて話が遮られた。
叫び声はひとつだけでなく、その声に続いて複数人の叫び声と走る足音。音量から察するに近くの部室に鬼が侵入したようだった。叫び声と足音、鬼の金切り声が重なって近くなる。
1人の部員がカンダタたちが隠れている引き戸を叩いて助けを求める。それに応える為、清音が立ち上がろうとするもカンダタが肩を強く掴んで止めた。
「手遅れだ」
冷徹に放った一言はカンダタのものとは思えなかった。
その数秒後、助けを求めた部員に鬼が襲う。たった1枚の戸から骨肉が砕かれ引き延ばされていく情景が懇願する声と粘着質な音だけで想像できた。
懇願する声は次第に弱くなり、鬼の咀嚼音だけが恐怖となって3人を縛る。そうして、食事の終えた鬼が鼻を鳴らして近くにいる人を探す。
見上げてみると引き戸の覗き窓から鬼の影が離れずにカンダタたちを探している。
カンダタは2人が叫ばないようにとひたすら願った。清音は下唇を噛み締めて両耳を塞ぎ、もう一方の部員は今にも叫びそうに肩を震わせている。
餌はないと判断した鬼は茂る植物を踏み締めながら遠ざかっていく。
緊張を解き、息を吐く。声をあげなかった2人に賞賛を送ってやりたいところだがまだ声は出せなかった。鬼が近くにいるかもしれない。
「もういや!」
堪えきれなかったのか女子部員は現場の理不尽さを訴える。
「悪くないのに!悪くないのに!あたしは何もしていないのに!」
「黙らせろ」
彼女の溢れた激情に思わずカンダタの口調も厳しくなる。清音はどうすればいいのか叫び訴える部員にすっかり狼狽してしまい、かけるべき言葉も分からなかった。
「なんなのよ!全部あいつのせいなのに!あああああ!」
彼女の怒声に混じって鬼の騒々しい足音が近づいてくる。
「清音!鬼が来る!清音!彼女に言え!」
カンダタの声は彼女に届かない。清音も対応できず、真っ白になった頭では迫る危機も鈍くなる。
鬼が女子部員の叫びを聞きつけて再び引き戸の前へと立つ。先程と違うのは鬼は確信を持って引き戸に突進してきたことだ。
「 いやあ!」
1度目の突進で女子部員は叫ぶ。2度目の突進で引き戸が大きく揺れ、3度目で一枚の戸が外れ鬼と共に戸が倒れる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます