鬼ごっこ 7

阿鼻叫喚が混じり合う音響の中、1人の女子生徒が部室から出てきた。放心状態の彼女は暗い静寂の廊下に佇む。右半分は誰かの血で染め上げられて、虚ろな瞳は生気を失っていた。

無機質な瞳がカンダタたちを見つめる。その瞬間、部室の出入り口から飛び出した黒い鬼が彼女を床に押し倒し、喉を引き裂く。

鬼ごっこが始まったのだ。衝撃的な一面を目の当たりにした清音は放心状態となってカンダタの声も届かなかった。そんな彼女の腕を掴み、逃げようとする。 幽体の手では清音の腕をすり抜けるだけだとわかっていても身体と心は反応してしまう。

死者であるカンダタの手は生者の手首を掴んだ。1つの疑問が浮かんだが、考えるのは後にしよう。

「行くぞ」

カンダタは無理矢理、清音の腕を引っ張り、蔦と花が生い茂る緑の床を踏みながら、階段を駆け上がる。同時に食事を終えたを鬼が2人を追いかけて、その勢いは曲がりきれずに渡り廊下の扉に突進する。

演劇部の部室では3体の鬼が放たれていた。鬼が1人を引き千切り、1人を食い殺す。その惨劇から逃れようと我先にと部室を出た生徒たちが渡り廊下を目指して走る。だが、扉の前には既に1体の鬼がいる。

カンダタたちを追ってきたその鬼は自分に向かってくる多くのご馳走に涎を垂らす。前方の鬼と後方の鬼2体。挟み撃ちにされた哀れな演劇部員たちを救う者はいない。

部室棟の1階は鬼達の餌場となり、白と紫の時計草に赤い血だまりが彩られた。




高らかに上がる怒声悲鳴は2階の部屋にまで響いた。吹奏楽部が使うその部室は金管楽器やピアノが人々の叫びを聞いたまま、沈黙を守る。

叫びと重なって聞こえてくるのは清音の嘔吐して胃から外界へと出される吐瀉音と涙混じりの嗚咽の声。

カンダタは清音の背中を優しくさすり、少しでも彼女の気分を和らげようとした。

清音ほどではないがカンダタも頭痛で頭を悩ませていた。こめかみから垂れる血が止まらない。塞ぐ気配もなかった。

「あの放送の子、知人か?」

清音が落ち着いたので切り出してみる。

「カウンセリングで一緒になった先輩です。でも、こんなことをする人じゃ」

涙と吐き気に苦しみながらも清音は答えてくれた。

「知り合ったのは?」

「先週です。とてもいい人で、優しくて」

知り合ってからそれほど経っていない様子だ。なら、隠れた人の本性を見破れなくても仕方がない。

桜尾 すみれは復讐と言っていた。憎悪を持て余していた彼女の前にハザマ側の人物が現れ、彼女に協力したといったところだろうか。謎なのはその人物が誰かということだ。光弥たちは回りくどいやり方はしない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る