魂のプログラム 18

 あたしは檻の獣と一緒じゃない。こんな対応なら家に帰すっていうのも怪しくなる。

 奴らがとる行動で考えられるのはこのまま軟禁、もしくは光弥が言っていた魂のプログラム。

 楽なのはプログラムよね。そういう傾向はみられないけれど、兆候があった時にはすでに遅いかもしれない。

 ハクはまだなの?探し物を頼んでからかなりの時間が経っている。ハクを待たずに脱出すべきかしら。

 それ以前にこの部屋から出る術が思いつかない。出入り口には天鳥がいるし。

 あたしは一人、広い部屋をうろうろと歩き回り、脱出口を脳内で探す。

 そうね、弥の話を整理しましょうか。あいつは白糸と白鋏の全てを話していない。でも、いくつかヒントはあった。「エスパーまがい」「空間さえも切ってしまう」

 話の端々にそう言っていた。

それってあたしには念動力とか千里眼みたいな能力があるってことよね。どちらもあたしはできない。白糸は物をくっつけるぐらいしかできないし、白鋏も物を切るだけ。

物を切る。空間を切る。もしかして。

ちょっとした発想の転換。本当にそれができるのかさえ怪しい。

障子越しの天鳥を伺う。陰のシルエットとして映る彼女はあたしを気にしていないようだった。本心からあいつらを信じていると勘違いしているみたいね。

奴らからしてみればあたしは一般的な女子高生で、浅はかで未熟だと見下している。

その油断が脱出の好機だった。ほかに思いつく案もない。

あたしは白鋏を握る。

実在しているものを想像したほうがわかりやすいわね。なら、試しにハクを想像してみよう。 繋がって。

深呼吸をして祈る。

布を切る感覚で何もない空間を裂く。

肩と同じくらいの高さに白鋏を構えて宙に刃をたてたまま、床まで下げる。

白い刃は通るとまさに空間をさくようにして楕円形の白い物体が浮かんだ。高さはあたしの肩と同じ。幅は1m。厚さは紙よりも薄い。

何に例えるべきかしら。得体の知れないその物体を恐れながらも観察してどう対応すべきなのか考えた。

あたしの考えが正しいのならこの先にハクがいるはず。

思い切って発光する楕円へと飛び込む。

着地は最悪だった。

脚が地に着いたと思ったら、その地は円形になっていて。あたしは謎の円形に体重を乗せたまま転がってバランスを整えられずに床に腰をぶつける。

痛みで唸っているとハクがきょとんとした顔であたしを見ていた。

寝殿でカンダタを探しているハクがあたしの目の前にいる。あたしの思いつきは正しかったみたいね。白鋏はテレポートの能力があった。

「あんたがさっさと戻ってくれば腰をぶつけずに済んだのに」

ハクが悪いわけでもないのに眉と頭を下げる。一応、詫びているようね。

「まぁ、いいわ。ここはどこなの?」

立ち上がって周囲を確認する。あたしが飛び込んだ楕円形の光はなくなっていて、妙な部屋があたしたちを囲む。

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