魂のプログラム 19
あたしが見てきたのは障子やすだれで区切られた部屋なのにハクがいたそこは襖が囲む部屋だった。その一面にはお札が貼られて戸を閉じてある。畳には無数の花瓶が立てられていてひと瓶に一輪の彼岸花が生けていた。
あの札は何?やばいものでもいるわけ?
固く閉ざす襖を不気味に想いながらも眺めていると奥からゆっくり小さな泣き声が流れてくる。すずり声、潜り声、様々な音が重なった泣き声だった。4、5人ぐらいかしら、いや、もっといるわね。
彼岸花、襖を閉じる札。背筋に走る悪寒はその先の危険を報せる。
「行こう、ハク」
反対側の襖を開ける。ここは嫌な感じがする。
「ハク、早く」
あたしと違ってハクはお札で閉じた襖が気になるらしい。
「ハク!」
三度目の呼びかけでやっと応えてくれた。後悔を残す足取りであたしの後を付いてくる。
天井の電光、床に敷かれた緑の保護シート。間違いない。ここは寝殿の地下ね。
古臭いのはこの気味の悪い部屋だけであとはあたしの時代にあるものばかり。
「それで、カンダタは見つけたの?」
ハクにお願いしていたものだ。するとハクはまた申し訳ないと頭を下げる。
やっぱり、頼るんじゃなかった。
「別にいいわよ。期待していたのはあたしだし。頼んだあたしが悪かったのよ。それにこれがあればなんとかなりそうだし」
白鋏があればこの問題も解決できる。これでカンダタを見つけて、さっさとここから離れよう。
白いハサミ一本で解決できるはずがないとハクは疑いの目をこちらに向ける。
「疑えばいいわ。あたしは先に言ってるから」
さっきと同じように白鋏で空間を裂いて別の場所へと移動する。
今度はカンダタを想像させて。
裂かれた隙間から光が漏れる。また転びたくなかったあたしは慎重に片脚からゆっくりと入れる。足裏の感触を確かめる。
ちゃんとした床みたいね。周囲に物も段差もない。身体を潜らせて移動先へと着く。
そこは神経質な白の廊下が一本続いている所だった。汚れは許さず、窓一枚もつけられない。
ここも地下みたいね。そして、カンダタらしき人もいない。
ハクの疑いの目がより一層強くなる。睨みつけるハクの目はあたしに文句を言っている。
「何よ。文句なら聞かないわよ」
そう言ってあたしは近くにあったドアノブを回す。カンダタは近くにいるはず。なら、この並んだ部屋のどこかにいる。
そう考えていたあたしは部屋へと入った。その中のものに唖然となった。
たった一つのシミや汚れを許さない白の空間に人の気配が感じられないのは白の静寂のせいだけじゃなかった。この空間そのものが汚れの原因となる人間を嫌っていたから。あたしのその解釈が勘違いを作っていた。
空間が嫌っていたのは人ではなく、生命だった。光弥や弥、カンダタには魂があっても生命を持っていない。
それを持っているのはあたしだけ。そういう意味ではこの命のないハザマそのものがあたしを嫌っていた。この白い静寂はハザマという世界を象徴していた。
その事実を悟る前のあたしはそこにあるものに驚き、言葉を失っていた。
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