魂のプログラム 13
時間が進むにつれて胸の締め付けと冷や汗は治まったが、胃の捩じれだけはまだそこに残っている。
胃痛に悩まされながらも、なんともない様子で寝転ぶ。カンダタは静かに待っていた。
カンダタを処分するとしても、この牢ではやらないだろう。準備ができ次第、カンダタを移動させるはずだ。好機はそこしかない。
狸寝入りを決め込んで見張りに背を向ける。しばらくすると、扉が開いて、見張りではない別の声が聞こえてくる。好機が来た。
「そろそろ時間だ」
入ってきた男が見張りとカンダタに告げる。
カンダタは敢えて頭と肩を垂らして、ゆるりとした動作で身体を起こす。諦めて運命を悟った男になりきった。
「早く来い」
鈍間なカンダタに男が苛立つ。入ってきた男とカンダタが鉄格子越しに対峙する。その男は両目がなく、代わりに穴から生えていたのはいくつかの花で、不快感を抱かせた。
その不快感も隠さずに表情に表して、怠く睨む。
なんだよ、こっちはこれから頭蓋骨に穴を空けられるんだぞ。抵抗しないだけでもありがたいと思えよ。そういった言葉を態度で伝える。カンダタと花顔の間で執り行われた苛立ちの押し付け合いが警戒というものを薄めた。
見張りが牢の鍵を取り出す。懐へと伸ばす手を一瞥して、目を逸らす。座敷牢を
渋々、手を突き出して、縄をその手にかけようとする。その直前、カンダタは花顔の虚を突いた。
縄がカンダタの手に触れた一瞬、さっと手を引いた。宙を掴んだ縄に花顔の思考は一時的に止まった。前かがみになった体勢の修正と状況整理をその一瞬で済ませようとする。たった一瞬の隙は拳を送るのに丁度よかった。握られた拳は花顔の鼻頭を潰し、痛みと混乱によって後ろの椅子へと凭れる。
抵抗を始めたカンダタを見張りが見逃すはずもなく、捕えようと手を伸ばす。その魔の手を躱すと逆に見張りの手をカンダタが捕まえる。右腕で見張りの腕を絡ませ、左手で帯を掴む。そして、そのまま左回りで身体を回転させると見張りを牢の中へと放り込む。
見張りが立ちあがって来る前に花顔の襟を掴んで、見張りの上へと投げる。重なってきた花顔に見張りがどくように怒鳴るも、彼は呻いてなかなか動けずにいた。折れたと花顔は訴える。そこまでやった覚えはないが、謝るつもりもない。
あたふたと慌てる2人の様子に笑いながら、くすねた鍵で戸を閉じる。そして、その鍵を格子の中へと高く投げた。鈍色の弧を描く鍵は窓枠の池へと着いて、金の蓮の隣で水没した。今までの鬱憤を少しだけ返せた。
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