魂のプログラム 14

その後の2人の行動を拝めなかったのは惜しかった。それも仕方がないだろう。脱走したからには素早く行動しなければならない。

カンダタは唯一の入口である階段を駆け上がり、座敷牢と外を繋ぐ戸を開ける。薄暗かった座敷牢と比べてその回廊は眩しかった。天井の細長い電光を睨む。

 太陽を除いて強い光はしらない。空の穴は高く遠くにあったのに、この光は間近にある。近すぎて倦厭してしまう。

 人工的な光に目は慣れようとするも、そんな合間もなく、回廊の隅から隅へと警報が響く。どういうわけか脱走したのを悟られたらしい。

 帯刀した白い羽織の者たちが左側から走って来る。必然的に右へ逃げる。

 細長い電光、気でも石でもない白い壁、少しべたつく緑の床。あの座敷牢はカンダタの知っている世界だったのに、知らない素材でできたこの回廊は近未来そのものだ。古い時代人であるカンダタにとってはそう捉えられた。

迫ってくる者たちは袴と小袖、白い羽織、刀といった馴染みがあるものなのに彼らを取り囲む壁や床は時代を越えてその場にいる人物置き去りにする。

いや、置き去りにされているのはカンダタだけだった。追手たちはそこに意識を持った時から時代錯誤の環境に順応し、寝殿内の構造も把握していた。

だからこそ、彼らがすぐにカンダタを捕縛しなかったのは不可解であった。カンダタは知る由もないが、スマホという連携手段を彼らは持っていた。それを使えばカンダタを挟み撃ちにもできた。

追手たちは敢えてそうした。少人数でカンダタをある場所へと誘導していたのだ。そうとも考えずに、カンダタは十字の角を右へとまがり、地下の奥へと誘われる。走って行くうちに倦厭していた電光が薄まり、光は足元を照らすだけで天井から降る白光は消えていく。

カンダタが誘導されたのは一面がガラス張りとなった回廊だった。追われた身でありながらそこにあるものに目を奪われる。ガラス張りの向こうにある風景を眺める。

巨大で人工的な一枚がそこに建っていた。鉄製の歯車を知らないカンダタにとってそれはより一層奇妙に回る平たい一枚岩に見えた。その岩間から浮かぶ光の玉が美しく、悍ましく飾り、カンダタはその光に魅かれる。

ガラス張りに手をあてて、底と点を覗く。歯車の塔は凸凹の岩肌に囲まれて暗い天井へと続いている。底は対照的で、光で満たされる。光弥の話では現在地は地下にあり、瑠璃は地上にいる。大池の水上に建っているのならばカンダタは水中にいる。

このガラスを破って水上へと行けないかと考えたが、岩肌には一滴の水がない。上につながっているのならば池の水が流れくるはずだ。それがないなら、岩肌を登っても無駄だろう

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