魂のプログラム 9

 あぁ、もう。頭が一杯いっぱいだ。こんな一度に色んなものを教えられてもついていけるはずがないのよ。

 一度、休むべきね。考えを整理する時間も必要だわ。

 「ハク」

 弥には聞こえない声量でハクを呼ぶ。

 目の前にいる弥にも聞こえていなかったのに離れて観葉植物で遊んでいたハクには聞こえたみたい。呼ばれたハクはあたしに近寄る。

 「いい、カンダタがどこかで捕まっている。その居場所を見つけてあたしに教えて」

 あたしが頼れるのはこんな阿呆だなんて。

 そう思われているとは知らずにハクは元気よく頷いて走り去る。そうしてしばらくすると天鳥が来て、あの中島へと戻される。

 次にあたしが連れてこられたのは、先程の目を覚ましたベッドのある格子の部屋ではなく、奥に位置する部屋の一角だった。

 「仕切りの外で待っていますので用がございましたらお申し付けください」

 道中、天鳥から説明を受ける。眼鏡のレンズを光らせた彼女は愛想がなく、だからといって皮肉を言う柔軟さもなかった。まさに、「真面目ちゃん」と呼ばれていそうな根暗な性格をしていた。

 「中島から出たい時は?誰が舟を漕いでくれるの?」

 「お疲れでしょうから、部屋でゆっくりお休みください。こちらで準備が整いましたらお呼び致します」

 「まだ、見学していない所もあるみたいだけど?」

 「見学されてもつまらないものです」

 堅い口調だけれど突き放すような厳しさはない。その発言の裏には「部屋から出るな」という命令に似た警告があった。天鳥はあたしの監視役として付き添っているんだわ。

 こいつらはあたしを帰す気があるのかしら。もし、抵抗したら?こんなときにカンダタはどこに行ったのよ。

 ふと、無意識にカンダタを頼りにしている自分がいて、すぐに訂正する。

 これは仲間意識なんかじゃない。利用できるからするだけ。仲間だからとか苦楽と共にした親友とか、少年漫画だけの幻想にしがみ付いたりしない。あたしはいつだって一人で解決してきた。今だって、これからも、ずっと。

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