魂のプログラム 4

 充分な食事を終えた後、あたしは光弥の案内により、寝殿造りの館から外へと出る。館は青く茂った深い竹林に囲まれていて、人が行ける道は一本しかなかった。白い小石で敷いた砂利道だけど歩きにくくはなかった。

 「俺たちがいるのは中島の一つ。さっきでのが宿泊所ってとこかな。この竹林を抜けると大池があって、その真ん中に建っているのが俺たちが主に働く寝殿になる」

 竹林路を通って行くと開けた空間が広がる。

光弥が言っていた通り、そこには大池があった。大池といっても海みたいな開放感がある。池を囲んでいるはずの陸が見当たらなかったからだ。水平線がどこまでも続くほどに池は大きかった。

水上に浮かぶのは、さっきもあった黄金の蓮。気取った花が至る所で咲いており、水面と朱色の寝殿に金色が飾られている。寝殿造りの城は平屋なのに高く幅広く、威風堂々と建つ。

他にもいくつかの小舟が大池の移動手段として使われていて、舟に乗っている者は人の形をしていなかった。2本足で立つ獣だったり、4本腕を持つ男だったり、中には目が8つもある人もいた。その見た目は様々で同じ姿を持つ者はいなかった。

あたしたちがいたのは3つある中島の1つだった。光弥はひとつの小舟を用意するとそれに乗る。光弥には見えないけれどハクもあたしの向かいに座る。光弥は舟の末端に立ち、オールで島と舟を離す。

「池を覗いてごらんよ。面白いのがあるぜ」

得意気な笑顔で言ってくる。苛立ちながらも一応従って、舟から首を伸ばしてみる。

池に底はなかった。悠々と水上をゆく舟のその下には第4と呼ばれている地獄があった。

なるほどね。あたしとカンダタが見上げて向かっていたのはこの池だったわけね。

「あの中島にものぞき穴があったけど、大池ははっきり見えるだろ。第4の担当者たちがこうやって舟に乗り、観察を兼ねた監視をしているんだ」

「苦しんで跪く人たちを高いとこから観賞しているわけね」

「仕事さ。楽しんでないしね。監視をしていないと不備があったりするし、池の真下にきても困るしね。それに、囚人の観察はこれからの研究に必要なるからね」

「地獄っていったら血の沼とか針の山とかじゃないの」

「それは先代のデザインさ。代替わりしらたら、地獄のデザインを変更するのが習わしなんだ。何千年も同じデザインだと飽きるだろ」

光弥は面白おかしく話していたけれどこちらとしては笑えない。光弥の父とやらがデザインしたせいであたしたちは走って追われたのだから。

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