魂のプログラム 3

 「はっきり、言うと、瑠璃は死んでいないんだ。幽体離脱というやつかな。本来、身体が死んで魂だけになると失う感覚がいくつかあるんだ。空腹もその一つ。瑠璃は身体と魂が繋がっているから、感覚が消えずに魂だけになっても空腹や怠さを感じるんだ。だいぶ、鈍くなっているみたいだけどね」

 「それだと、カンダタは?彼は痛がってたわ。痛覚は死んでも残るの?」

 「いいや、痛覚もない。囚人にはプログラムを入れておくんだよ」

 「プログラム?」

 「簡単さ。ドリルで頭蓋骨に穴を開けてプラグを刺して、魂に痛覚のコードを入力するだけ。他にも色んなものを付け加えているんだけどね。このプログラムを使えば記憶や人格もいじれる」

 「もしかして、地獄で彼が空の穴を目指したのも、記憶がなくなっていたのも?」

 「空の穴?あぁ、あれね。そうさ。第4では一定の場所を目指すよう、使命感のコードを入力している。苦痛も行動もしてくれないと罰とは言えないだろう。記憶はあれが勝手に忘れたんだろ」

 顔には出さなかったけれどあたしは心の中で笑った。カンダタの言っていたのは別の誰かが勝手に作ったものだった。ほんと、哀れで滑稽な奴。百年以上求めて続けていたものは結局、虚像に過ぎなかった。彼は虚像を求めて、虚像に縋っていた。全てが報われると信じて疑わない、愚かな奴。

 そういえば、カンダタの変異もプログラムされたものなのかしら。それにしては矛盾がある。罰で苦しむための地獄なら、自我のない凶暴化はそのルールに反している。自覚があるのなら別だけれど、カンダタには記憶すらなかった。

 「ねぇ、そのプログラムで飢えさせたり、凶暴になったりするの?例えば、ゾンビみたいになる、とか」

 「なんだい、それ。第4には不要なものだよ。そういえば、二人は揉めていたようだけど、あれがゾンビになったのかい?」

 「まぁ、そんなとこ」

 「どこかで、バグがあるのかも。修正が必要だな」

 光弥の言い草は適当さの中に傲慢な部分があった。それはあたしたちが下層にいて当然という気に食わない態度だった。そして、彼とはどこか、ずれみたいなものがある。そのずれを言葉では表現できようがないけれど、受け入れられないずれだった。

 「さて、食べ終わったなら、ここを案内しよう。親父にも会わせないと」

 「なんであんたの父親に会わないといけないのよ」

 「そりゃあ、親父はここの最高権力者だからさ。所謂、所長ってやつだな」

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