魂のプログラム 1
目を覚ましたのはふわふわの知らないベッドの上だった。木目板の丸い模様がこちらを見ている。どこからか青臭さが流れてくる。
現状を整理しましょうか。
空の穴を目指して、高校に辿り着いたらカンダタが襲ってきてハクが対処してくれたけど、あたしが力尽きて、目を覚ましたら謎のベッドで寝ている。
駄目ね。色んなことが起こって、理解が追いつかない。
目を覚ましたあたしに気付いたのか、ハクはこちらを心配そうに覗き見てくる。
こいつに聞いたって、何も知らなそうね。取り敢えず、起きてみましょうか。
あれほどあった気怠さは追い出されて身体はしっかりと動いてくれた。
あたしが寝ていた部屋は和風テイストの室内に洋風の家具が置かれた時代がちぐはぐな部屋だった。
和式の部屋に洋風の家具は珍しくない。畳の上に4本足のベッドが置かれてもそれは常識の範囲内。あたしに違和感を持たせたのは四方がすだれの格子で仕切られていたから。4面の内、一面だけ格子が上がり、木目板の廊下と青臭い池がそこから一望で来きた。
座敷のようね。馴染みのある和式の家よりも時代が古いような。なのに、畳も木柱も新築そのものだわ。
こういう建築物を歴史の授業で習ったわね。何て言ったかしら。えっと、確か。あぁ、そうそう、寝殿造り。平安か鎌倉か、どちらか忘れたけれど、その時に建てたのよね。当時のお城みたいなもの。確かそうだったはず。
ベッドから起きてもハクはまだ心配事が解消されないみたいで、転びはしないかまた気絶したりないかとそわそわと周囲を歩く。
「平気よ。邪魔だから離れて」
その言葉通りにハクはあたしから2、3歩ほど離れるも、その目線は心配だけを語っている。
その目線を無視して部屋から出た。
地獄とは真逆の風景ね。とても、穏やかだわ。
静かに漂う杉の匂い。木目の廊下は暗く重く伸びて木柱は赤く艶やかに屋根を支える。
池のある中庭に出て、半円の橋の頂に立つ。その池は通常ではない、不思議な池だった。水上には黄金に輝く蓮が咲いて、その茎は水中を黄金色に光らせているけれど、池の底は見えないまま、黄金色で水底を埋める。その中を泳ぐのは例の風変わりな鯉で、右に揺らぎ、左に揺らぎ、そして光の水底へと消える。
おかしな池ね。ここ、どこなのかしら。
「思ったより早く起きたね。調子はどうだい?」
あたしを呼んだのは廊下の奥から現れた一人の青年だった。
「混乱してるだろうね。でも、安心するといい。俺は君の不安や疑問を解きにきたんだ」
事情説明をしようと言った彼はスーツ姿であったけれど、ネクタイはしていないしボタンもしていない。ズボンや背広には数本の皺もある。髪は束ねているけれど、ボサボサね。
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