空の穴 8

 長年、この地を求めてそれだけを支えにしてきたわりにカンダタの様子は憂鬱そのものだった。あの光はカンダタも弱らせるらしい。


 「で、どうすんのよ」

 「そこまで、考えたことなかった」


 カンダタは頭を抱えたまま答えてあと、大きく息を吐いた。


 「何よ、それ。屋上にでも行ってみる?神様に懺悔してお願いでもする?」

 「今更、祈りも聞き入れないさ」

 「なら、天国の道標をここから眺めるの?あたしには待ち人もいなし、神も信じていないわ。ここに根を下ろすならあたしは別のとこにいく」


 悩みに悩むカンダタは空の穴を眺める。青褪めても身体が震えてもその眼差しは冷めない熱が籠っていた。到底理解できないその熱は彼を立ち上がらせ、身体を支えた。


 「もう少しだけ、付き合ってくれ。あそこの頂上まで」


 そうなるだろうとなんとなく予測していた。

 顔も名前も思い出せない「待ち人」はそこまで思われているのなら幸せ者なんでしょうね。まぁ、その人が実在すればの話だけど。


 「体調がよろしくないみたいだけど?」

 「歩くだけなら平気だ。鬼もいないだろ」

 「そこまでして行きたいの?」

 「それしかないんだ。俺には、それしか」


頭痛がカンダタを苦しめて戸惑いが脚を遅らせて焦燥もまた彼を追い詰めた。睡魔と闘い、怪我を残したままでも進む。


そこまでなっても彼を動かすのはあの盲信からでしょうね。「君に会いたい」とか「永遠の誓い」とか、脳みそが花畑になっている奴らの台詞はその場限りの妄想でしかないのにカンダタという男は枯れた一輪の花を花畑と讃えて、妄想を現実だと謳う。

馬鹿みたいにメルヘンチックなその盲信は時折、吐き気がするほど気持ち悪い。


商店からでると2人を見下す光に晒される。鬼もいないので学校へは正面から堂々と行けたけどカンダタの体調は時間が経過するほどに悪くなる。

商店から正門までの短い距離でも何度か脚を止めてしまい、あたしは背中を押す。なんとか校内に入り、光が遮られてもカンダタの体調は回復しなかった。


玄関口にまで着いたのがやっとでそこからは歩行もままならない。仕方なく、カンダタを下駄箱の棚まで連れて行き、そこで休ませることにした。


「いかないと」


独り言のような小さな呟きがあたしに訴える。


「その脳は何でできてるの。草?花?歩けないくせにどこへ行こうって言うのよ」


苛立ったあたしはここまでのストレスを無力なカンダタに当てた。

余計な言葉はいくつかあったけれど、あたしの正論はカンダタを黙り、項垂れる。

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