空の穴 7

「まさか、蝶?」

自身だけに向けられた父の小さな呟きを光弥は聞き逃さなかった。

蝶、また蝶だ。

何度か浮かぶその単語から真実を推理しようにもまだ情報が足りない。

「回収は光弥に任せる。早急に行え。それとこの囚人も回収し、その後処分する」

「囚人を?魂の処分は禁止だろ」

「不確定要素のある魂は危険だ。輪廻に流すわけにもいかない」

最もだ。父のそれは正論で正しい言い訳だ。

 「わかったよ。回収と処分の準備しとく」

 「いや、処分は私がやる。光弥は回収だけでいい」

 やはり、黒い囚人に何かあるのだ。囚人から得られる情報が光弥に渡ってしまうのを父は防ごうとしている。

 「お前も疲れたろ。頑張っているじゃないか。あとひと踏ん張りだぞ」

 父は励ましに肩を叩いて光弥は笑みを返す。

 優しく叩いたその手を信用はない。父が優しい時は裏がある時であり、光弥を騙す時だ。

 父と部下たちは橋を渡りきって光弥はその背中を見送る。足元を照らす黄金の蓮は怪しく光った。




 方向も大体の位置も学校ね。

 空の穴は学校の真下にあると近づくほど確信を持てた。

 宝石の鯉はあたしたちに害を及ぼしたりはせず、彼らは悠然として泳いであたしたちの前を通ったり真上を飛んで見せたりしていた。

 線路の橋を渡ると橋下に潜むように佇む飛行旅客機並みの巨大鯉があたしたちを上目で睨む。

 さすがにこれはあたしでも危機感を持った。けれど、その巨大鯉は睨むだけであたしたちを食おうとしなかった。

 「ピノキオだったわね。巨大な魚に食べられる話」

 「それは、食べられるだけの話か?」

 「いいえ、人形が人になる話よ」

 「そんなことが?」

 「おとぎ話よ。人形が人になるなんて有り得ないじゃない」

 「そう、だな。人が人形になるのはよくあるのにな」

 空の穴の光は禍々しくあたしたちに降り注ぐ。この光が強くなるとカンダタの足取りが遅くなっていった。

 橋から学校までは15分ぐらいで着くはずがカンダタに合わせていたせいで30分以上も時間が過ぎた。目的地に着いたとしてもすぐに学校には入れなかった。

 あたしたちは学校の目先にある商店に身を隠してガラス戸から注がれる光を避ける為、奥へと入る。

 「ここまで来た感想はどうなのよ?」

 喜悦の感想を求めずにカンダタに聞いてみる。

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