邂逅するまで 4

 イカれてる。違う。これは先のことを考えての行動よ。あたしはまだ正常なはず。

 ぼんやりと考えていると沈黙を守っていた白い鬼があたしの前に現れる。鼻先を左手に当てて頭こうべを垂れる。心配しているようだった。


 「まさか、幻覚に心配されるなんてね。


 頭を下げたまま目線を上げる。大丈夫なのかと聞いているような目線。あたしはちょっとした悪戯を思いつく。


 「駄目ね。傷も深くて血も止まらないし、バイ菌も入ったみたい。傷口の色が異常だわ」


 わかりやすい嘘を白い鬼はあっさりと信じてしまったみたいであたふたとした挙動で黒い目から純真無垢な涙を溜める。

 こんな巨体で悍ましい姿をしているのに小心者みたいな身振りをされると笑いが吹き出してしまう。


 「嘘よ。馬鹿ね」


 からかわれたと察した白い鬼は眉を寄せて唸り声を鳴らす。


 「悪かったわよ」


 自然と笑う自分がいる。あれほど関わりたくないと嫌厭していたのにこいつには親しみやすさがあった。


 「あんたってほんとにあたしの幻覚?何か目的があって現れてんじゃないの?例えば、あんたにかけてある呪いをあたしが解く、とか」


 白い鬼は怒るのを止めて首を傾げる。自身のことなのにわからないらしい。返答は期待していなかったけど。


 「学校を出る前に保健室に寄らないとね。行くわよハク」


 方向転換して先を行くも白い鬼はまた首を傾げる。


 「あんたのことよ、ハク。どうせ名前がないんならなんて呼ばれたっていいでしょ」

 

 命名されたのが嬉しいのか、ハクはスキップするようにあたしの後ろをついてくる。

 悩んだ結果、本屋に行くことにした。雨の中の寄り道はしたくなかったけれど、少しだけ治まったあたしの機嫌は本屋へと向かわせていた。


目的のレシピ本を鞄の中に押し込み、本屋から出ると小腹が空いてきたのでコンビニにも寄って150円のチキンとメロンパンを購入する。

 チキンの封を切って、熱々で芳ばしい鶏肉を口に含む。サクサクの衣に肉汁たっぷりのチキン。噛むほどに熱さと旨みが口いっぱいに広がった。


 短い至福を味わっていると匂いに魅かれたハクが興味津々にチキンを見つめる。あたしがおいしそうに食べるから気になって仕方がないのね。


 「あげようか?」


 いじわるをするつもりで差し出す。どうせ、物には触れられないのだから、噛もうとしたところで空回りするだけ。

 そのことを忘れているハクは目を輝かせてチキンへと口を広げる。ニヤニヤとその様子を見守ろうとしたけれど、結末は意外なものだった。

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