邂逅するまで 3
「あんたのせいで親が呼ばれることになってさ。お陰であたしは晒し者だよ」
「意外。あなたも羞恥心があるのね。猿と同じ言動していたからないものだと」
「てめぇ」
取り巻きの一人が前のめりになって一歩踏み出す。それを山崎が止める。
「まぁ、あたしらも温厚でいたいのよ。でもさ、心の傷がね。これだけは癒せなくてさ」
「さっさと用件を言いなさいよ。バカみたいな言い回ししているから成績悪いのよ」
山崎の片眉が皺を作って、すぐに笑顔に戻る。彼女はまだあたしの嫌味を受け入れていた。あたしもまたふつふつと熱湯する感情を抑える。
「聞いたんだけど、あんたの家ってセレブらしいね。お小遣いも相当貰ってんじゃない?それをさ、少しだけ分けてくれたらあたしたちも許してあげる」
あたしは奥歯を噛みしめて行き場のない怒声を噛み潰した。カツアゲされるのに憤りがあるわけじゃない。こいつの家庭に関する発言があたしの逆鱗に触れた。彼女はいくつか勘違いしている。
「悪いけれど、親とは不仲なの。渡せるものはないわ」
「そんなこと言わずに責任とってよ。あんたのせいで心が痛くて痛くてしょうがないんだよ。金がないなら親から盗ってこいよ」
この一言が激昂になって内側から湧いた。激しい衝動に従ったあたしは教材が入った鞄を鈍器にして振り回し、たった一振りに怒りの全てを込める。激昂の一撃は下駄箱に向けられて知らない誰かの靴が飛び出る。
暴力的になったあたしに3人は恐れを見せていた。間抜けた顔であたしを凝視する。
あたしの怒りはあの一瞬で過ぎ去って、冷静さを取り戻して思考を巡らす。
彼女たちに集られるのはごめんだ。岡本清音からターゲットを替えることだってあり得る。それらを避ける方法として「こいつとは関わりたくない」と思わるべきよね。
乱雑に投げた鞄から筆箱を取り、カッターを探す。
「悪いわね。犯罪者にはなりたくないのよ。責任を取ってほしんなら。そうね、傷には傷で返しましょうか」
チチチ、と小さな音と共に鉛色の刃が伸びる。
「あ、あんたそれを、どうする気よ!」
先程の横暴に3人はすっかり怯えていた。
「勘違いしないでよ。これは謝罪なんだから」
弁解の為に言ってみるも剥き出た刃がそれを無意味にさせる。
あたしは手の平に刃を当ててスパリ、と5㎝ぐらいの傷をつけた。
「結構痛いわね」
傷からは艶やかな血が静かに零れる。思い切ってやったからなかなかの勢いね。
左手を握り締めると鈍い痛みがさらに強くなる。指の合間から溢れる拳を山崎たちにつき出す。一滴二滴と落ちる雫が止むことのないリズムを刻んだ。
「傷は癒せないけどこれで許してくれるからしら。足りないのなら手首でもいいわよ」
自傷して微笑むあたしはどう映ったのだろう。
こいつヤバいよ、と後ろの取り巻きが小声で伝える。言わなくとも誰もがわかっている。
「あんたイカれてるよ」
山崎はちはそれだけを言い残して去って行く。
突き出した拳を戻して開く。手の平の中で血がべっとりと広がってしまった。しかも止まる様子がない。ポケットのハンカチで床を拭いてから左手を巻く。
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