彼の日常について 2

大きな車道に沿って並ぶビル群の一角、比較的、崩壊が少なく背の高いビルへと入る。


 基本、建築物の中には入らないのが賢明だ。空の穴の光が届かない暗闇は鬼たちの溜まり場になっている。できる限り、影を作るビルは避けて通るべきだ。

 その中には例外もある。男が入ったのもその一つで、全面がガラス張りで作られているのだ。外の光が内部に入り、影の面積を狭くしている。そういった出現率が少ない場所を把握していた。その条件下も記憶している。しかし、経験や知恵を積んでも結局は確率の問題なのだ。それらがあてにならないときもある。


 ビルの玄関口に立ち、何もない静寂に耳を澄ます。手ごろの瓦礫を掴み、影の奥へと投げる。力一杯に投げたので一つの瓦礫が石床の上に落ちるまでそれなりに時間が経った。

 瓦礫と石床の衝突音は遠くの光が届かない暗闇から響く。鬼がきても逃げれるように身構える。いくら待っても響いた音以外、鬼が飛び出るわけでも暗闇の奥から獣の目が煌めいたりしなかった。


 ひとまず、安全だろうと判断した男は階段でそこの最上階へと登る。

 14階の高層ビルを登り切って、広い室内へと着く。そこも全面がガラス張りになっているのだが、どのガラス窓も罅か穴があり、割れていた。そのガラス破片がフロア内部に散らばっており、脚絆と足袋だけでは歩くのもできない。


 できるだけバールで破片を払いながら細い道を作る。ひとつの窓枠まで14階の風景を見下す。ガラス張りのビルに隣接して建っているのはここよりも背が低めのビルで、2本のビルの合間はほとんどない。

 そういっても、合間を間近にすればそれなりに距離がある。跳び移って行けるか行けないかの微妙な間隔。こういった微妙な間隔を保ったビルはいくつある。そこを跳び越えて、ビルからビルへと跳び移る。それがビル街での道のりだった。


 とても、遠回りな道のりだ。始めに14階まで登らなければならない。その後も下って登っての繰り返しだ。安全な道としたらこれ一番だった。鬼との対峙が少ない道。ビルから落ちる場合もある。それでも、安全な道と言える。

 少しだけ助走をつけて窓枠から跳ぶ。同時に向かい風が吹いて男の行く先を妨げる。このぐらいの風は苦にはならない。無事に着地すると別場所へと移る。


 次は屋上から外装に設置された非常階段へと跳ばなければならない。大分、年季の入った赤錆色の鉄の階段は所々に穴が会ったり、格子が外れていたりして跳び移るには不安があった。ここでの難題は2つある。

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