ショコラブレッドと紅茶

木谷日向子

第1話

 バレンタインの前日に、懐かしい友達とショコラブレッドを作った。その3日前には一度1年振りに再会していたのだけれど。

 私達の仲は、高校三年生に同じクラスになってからで5年続いている。受験生活をお互いに励まし合い、乗り越えて一緒に高校最後のクラスで卒業した仲なのだ。

 一人はあまり受験が上手くいかなくて、希望の大学には勧めなかったが、女子短大に進んでから勉強を頑張り、良い成績を取って、推薦で四年制の大学に三年生から編入した。

 もう一人はお婆ちゃんが大好きで、日曜日には必ず自分のお婆ちゃんの家に遊びに行くような子で、希望通りの福祉の大学に推薦で合格した。私は好きな美術史の道に進んだが、お互い学ぶ大学も学ぶ事も違う場所に進んで離れてしまって、趣味も違うというのに、離れていても互いの事を想い合って、会う機会を作り一年に数回は遊んでいた。

 それは、趣味が合うから、興味がある学問やなりたい職種が一緒だからという事で繋がっていたのではなく、あなたの人柄や個性が大好きだから、という理由での繋がりだったのだと思う。女子大に進んだ友達がTwitterで農家の人達とコラボした野菜料理のビュッフェのイベントを告知していて、それに私が喰いついたのが再会の合図だった。そのイベントが終わり、すぐにまた再会の約束をした。それが、女子大の友達が通っている料理教室の体験だった。

 私は料理も好んでやる方では無く、ましてやパンなんて作った事がない。ボウルに入ったイースト菌にお湯をかけてイーストの活動を活発にして、卵と混ぜて。ココアパウダーを混ぜて。出来た物をひたすら台の上で伸ばして、ふと手を見ると、雨上がりに砂場で泥団子遊びをしていた小学生のようになっていて、なんだかおかしくて笑った。

 三等分して手で丸めたそれは、何故か友達の丸めた物より私が丸めた物の方がでかい。私の手の中で発酵したのだろうか? などと言い合ってまた笑った。

 何をしても楽しい三人だったが、料理を三人で作ったは初めてだった。その後も出来上がったパンを囲みながら(私の作ったパンは上にかけたチョコレートが外にはみ出てしまったり、形も歪だったけれど)学校生活の話、就職の話、朝ドラの主人公の夫役がカッコいいこと、そして今の自分たちの恋の話なんかもした。

 自分たちを取り巻く環境も、周りの人間関係もどんどん過ぎ去って変わっていくけれど、変わらない三人の関係。趣味も友達も性格も違うのに、変わらず他愛ないことで笑い合う関係はずっと変わらない。これが本当の友達っていうんだろうな、と思った瞬間は、ショコラブレッドと紅茶の香りで包まれていた。

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ショコラブレッドと紅茶 木谷日向子 @komobota705

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