二七 池袋駅・構内

 永遠が求道会の異能力者たちに気付いた頃、御堂刹那は池袋駅の構内を彷徨うろつきながら、おかしな事に気が付いていた。


  なんで永遠のところに行けないの?


 彼女が居るのはメトロポリタン口だ。場所は解っているのにどうしても辿たどり着けない。ルートがわからないのではない、気付くと別の方向へ向かっているのだ。


  絶対にヘン……これってもしかすると『人払い』ってヤツ?


「ザッキー、どうしよう?」


 人混みをちょこちょこ避けながらついてくる座敷童子に視線を向ける。刹那は遙香や永遠のように呪術の使い方を知らないし、そもそも霊力もさほど強くはない。出来るのは霊視と霊との会話、後は座敷童子に頼んで何かをやってもらう事くらいだ。


「ザッキーには人払いの術は効かないの?」


 座敷童子はコクンと頷いた、刹那の顔に微笑みが広がる。


「永遠を迎えに行くために、あたしが人払いされそうになったら教えてくれる?」


 再び彼はコクンと頷く。


「ありがとう!」


 刹那は再びメトロポリタン口を目指した。人払いの呪が使われていると言うことは、既に求道会が永遠に接触しているかも知れない。一刻も早く、彼女と合流しなければ。刹那はバッグから遙香から受け取ったネームホルダーを取り出して握りめた。


 階段を上がりホームに出る、そのまま新宿へ向かう方向へ進めばメトロポリタン口に出る上り階段がある。間違いようのないルートだ。


 にも関わらず、刹那は座敷童子に上衣のすそを引っぱられた。


「え? どうしたの、ザッキー?」


 彼は「ギャ」と小さく鳴いた。その声で刹那は自分が回れ右をして戻ろうとしていることに気が付いた。


「あッ。やっぱりこれって人払い……」


 座敷童子がコクコクと頷く。


「助かったわ、ありがとね」


 再び礼を言ってホームに出る。あとはまっすぐ進んで、メトロポリタン口に繋がる階段を登ればいい。一旦意識してしまえば人払いはたいてい破れると遙香も言っていた。


「キャー! だれか助けてぇえぇえええええッ!」


 踏み出そうとすると、二つ向こうのホームから悲鳴が聞こえた。声の主が誰かは直ぐに判った。


 黄色いスーツの男女に一人の少女が取り囲まれている。


「永遠!」


 慌てて階段を駆け上がる。


「お願いッ、警察を呼んでぇえぇえええええッ!」


 今は遙香も鬼多見も居ない、自分が何とかするしかないのだ。


  でも、あたしとザッキーだけであの人数を何とかできる?


 パッと見た目、十人ぐらい居る。


  心配しても始まらない、あたしにはコレがある。


 ネームホルダーに視線を送る。

  

「助けてッ、警察を呼んで! 求道会に拉致されるッ!」


 三度、悲鳴が聞こえた。


「永遠ッ、今、お姉ちゃんが行くから!」


 階段を登り切り、山手線東京方面行きのホームを目指す。恐らく一分もかかっていないが刹那には何十分にも感じられた。やっと山手線ホームに降りる階段に辿り着く。ところがバタバタと求道会の信者が駆け上がってくるので、彼女は慌てて離れた。


 彼等は刹那と座敷童子を無視して、メトロポリタン口の改札を抜けて姿を消した。


 思わず呆然とその姿を見送る。


「あ、いけない……永遠ぁ~」


 慌てて階段を駆け下りる。


 永遠は駅員と一緒に居た。その様子を撮影する野次馬が結構いる。そこで刹那はここが池袋であることを思いだした。


  あっちゃ~、素性が一〇〇パーばれたわ。


「姉さん!」


「だいじょうぶッ?」


 思わず永遠を抱きしめる。


「うん……」


「よかった……」


「あの、お知り合いですか?」


 駅員が遠慮がちに尋ねてきた。


「あ、申し遅れました。あたくし、この子のマネージャーをしております、御堂刹那です」


 ポケットから名刺入れを取り出し、一枚抜くと駅員に渡す。


 その時、電車がホームに入って来た。


「警察もすぐに来るので、下でお話しを聞かせてもらいます」


 彼にうながされ、刹那と永遠は構内へと降りていった。

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