二一 NEXT ADVENTURE
朱理は遙香と共に英明の会社に来ていた、父の会社に来たのはこれで二度目だ。初めて来たのは小学校の頃、親の職業について作文を書く課題があり、そのために訪れた。それ以外は池袋に来た際に建物の前を素通りしたことはあるが、中に足を踏み入れたことは無い。
そして今、再び父の職場を眼にしたが、明るく活気があった以前とは違い、社内には重々しい空気が立ち
「奥様、申し訳ありません」
出迎えてくれた男性が深々と頭を下げた。
「須永さんは悪くない、むしろ謝らなくちゃならないのはあたしのほう」
「しかし、社長を逃がすことができませんでした」
一見するとポーカーフェイスだが、瞳に悔しさが
「今回は逃げ切れなかったわ、相手が警察だもの。そもそもあたしが……いえ、あたしたちが求道会に目を付けられたのが運の尽きよ。
須永さんには本当に申し訳ないけど、後はあたしたちで何とかするからそれまでお願いね」
「かしこまりました」
それから朱理は母と共に、英明が逮捕されたときの状況を聞いて建物から出た。
「お父さん、だいじょうぶかな……?」
改めて父の身が心配になる。
「新幹線でも言ったでしょ、お父さんも社長も基本的には無事よ。あとは求道会の動き次第」
そう言われても不安は
「求道会はどうすると思う?」
遙香は朱理に視線を向け、口元に不敵な笑みを浮かべた。
「それについてはすぐに答えが出るはずよ」
「どういうこと?」
遙香は、スマホで電話をしているサラリーマン、ティッシュ配りの女性、そして停車しているクルマの運転手に視線を走らせた。最後の運転手は遙香と眼が合い、慌てて顔を背けた。それを見て彼女は満足げに微笑む。
「え? え? なに?」
朱理は何が起っているか理解できず、少し混乱した。
「あたしたちがここに来ることは、向こうも判っているってことよ」
「じゃあ、あの人たちは……」
思わず三人を見回す。
スマホで話していた男は「わかりました、ではまた」と言うと急いで立ち去り、ティッシュ配りの女性もまだ配り終えていないのに移動する準備を始め、クルマも発進した。
「朱理が演技指導をしてやったほうがいいわね」
これ見よがしに母が言う。
「わかったでしょ? こっちの行動は監視されている。そして監視がバレたことも伝わったから、何かしら行動を起こすはずよ」
遙香は駅に向かって歩き出した。悠輝たちと新宿で待ち合わせをしている。
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