二〇 大宮駅ホーム

 刹那は遙香がホームの端で通話を終え、戻って来るのを固唾を呑んで見守っていた。


「お母さん、お父さんと社長は?」


 彼女が聞きたかったことを永遠が尋ねた。


「警察に捕まったみたいね」


 何か言いかけた永遠を遙香は手で制した。


「大丈夫。むちゃな尋問なんかしたらお母さんがゆるさないし、求道会のバカどもだってそれぐらいは理解しているはずよ。

 してなかったら後悔させるだけ」


 一瞬、危険な輝きが瞳に浮かぶ。


「これからどうするの?」


 刹那は遙香と鬼多見に視線を走らせた。


「そうね……二手に分かれましょう。刹那、悪いけどあたしは朱理と一緒に池袋へ行くから、あんたは悠輝とブレーブに向かって」


 一瞬、顔が引きった。正直、鬼多見と二人きりで行動したくはない。だが、二手に分かれるのはこの状況では当然だし、永遠も遙香といた方が安全だ。求道会が自分を狙っているとは考えにくいが、人質に加えられる恐れがある。それが判っているので、彼女は何も言わずに頷いた。


「からかってあげたいけど、今はそんな余裕ないからゆるしてね」


 遙香が申し訳なさそうに言う。


「いや、余裕があってもからかわなくていいですから」


 夫が警察に逮捕されたのにも関わらず遙香は通常運転だ。


「それと……コレ、持っていって」


 遙香はバッグの中からネームホルダーを取り出した。カードを入れるところに真っ白の厚紙が入っている。いや厚紙ではない、何かを包んだ紙を長方形にして入れているのだ。


「ナンですか、これ? 英明さんの会社の入館証?」


 思わず眉根を寄せる。


「そんなわけないでしょ? あなたが欲しがっていたモノよ」


 意味ありげに遙香は微笑んだ。


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