一八 東北新幹線やまびこ

 真藤朱理は車窓から流れる風景を眺めていた。東北新幹線は二四〇キロで走ると聞いているが本当だろうか? 田園の向こうにある家々を見ていると、そんなに速いスピードが出ていると思えない。今は一分一秒でも早く東京に着きたかった。


「朱理、落ち着きなさい」


「でも……」


「あんたがいくら焦っても新幹線は速く走らない。日本の電車は時間に正確だから遅れない分、早く着くこともないのよ」


 母の言うことは解るが、それでも彼女は落ち着くことは出来なかった。


 今、朱理は刹那と座敷童子、遙香、そして悠輝と共に新幹線に乗っている。何故、叔父まで一緒なのかというと、母がゆうぞらの考えを読み取り、父とブレーブの社長を人質にしようとしていることが判ったからだ。そのため二人を守るために連れてきた。


「もし、何かあれば満留が連絡をよこすわ」


 既に遙香は満留に連絡し、英明と好恵を護るよう命じた。しかし、二人は別々の場所にいて、しかも相手は求道会だ。仏眼や朋美たちはクルマでの移動中だが、他にも異能者が大勢いるのは間違いない。恐らくそのほとんどが満留より劣る異能者だが多勢に無勢だ。さらに向こうには政治家も付いており、満留が一人で相手をするには荷が重すぎる。その証拠に母は彼女に生命いのちけて守れとは言わなかった。


 満留は遙香のどんな命令にも逆らわない、生命いのちを捨てろと命じられれば喜んで捨てる。だから母は命じなかった、満留を死なせないために。だが、裏を返せばそれだけ父と社長が求道会の手に落ちる可能性が高いのだ。


「だいじょうぶ、二人に危険は無いわ」


 朱理の考えを読んだのだろう、遙香がなだめるように言った。


「どうして言い切れるの?」


「人質は生かしておくから価値があるんだよ」


 今度は叔父が口を開いた、母と同じく落ち着いている。


「でも、手脚の一本や二本とか考えるかも……」


 威圧的な佐伯仏眼と弓削朋美を思い出すと、母達を脅すためにそれぐらいやりかねない気がする。


 朱理の言葉に遙香は軽く溜息を吐いた。


「たしかにその可能性はあるわね、求道会がお母さんのことをどう理解したのかによるけど」


「それでも奴らはアーク以上に国家権力と密接に繋がっている。直接手を出すんじゃなく、警察を動かすはずだよ」


「お父さんと社長が逮捕されるってこと?」


 悠輝は首を縦に振った。


「まいったわね、例え無実の罪だとしてもかなりのイメージダウンになるわ」


 刹那がザッキーを抱きしめて暗い声で言った。


「本当に……」


 遙香が何か言いかけたが、新幹線が減速し大宮駅のホームが見えた。


「とりあえず乗り換えましょう」


 朱理たちは荷物を持って席を立った。


 新幹線のドアが開き、ホームに降りたところで遙香のスマートフォンが鳴った。

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