一六 プロダクションブレーブ

 あらはブラインドの隙間から事務所の前の通りを見下ろしていた。新宿の外れにあるこの雑居ビルの周りは細い道ばかりなので路上駐車をされると大迷惑だ。なのにビルから少し離れた所に、黒のムーブが一台駐まっている。


  パパラッチ?


 ブレーブの誰かのスクープを狙っているのだろうか。心当たりは数名いる。それほどメジャーなタレントをようしていない事務所だが、それなりに露出の多い者たちはいるのだ。


  でも、何かおかしい……


 ブレーブを監視しているのは間違いないが、違和感を感じる。ストーカーだろうか? いや、それも違う。


「どうしたの早紀ちゃん?」


 社長の中川好恵が彼女の様子に気付いた。


「不審なクルマが事務所のそばにいます」


「パパラッチかストーカーかしら?」


 好恵も窓際に近づいてくる。


「どうでしょう……」


 好恵は窓から一瞥すると、自分の席に戻った。


「また、面倒なことが起きそうね。せっかく、仕事にかこつけてハルちゃんが刹那を鬼多見さんのところに連れて行ってくれたのに」


「だから、起るのかもしれませんよ」


 好恵は口をへの字に曲げた。


「まぁ、仕方ないわね。放って置いても、あの子には厄介事が近づいてくるから」


 毒をもって毒を制す。しかし、相乗効果で何倍も面倒になる可能性だってある。早紀にとっては刹那も悠輝も親戚みたいなものだ。二人には幸せになって欲しいが、どうしてもあの二人が平穏に暮らしている姿を想像できない。


 あの不審な車が、パパラッチやストーカーであることを思わず祈りそうになり、自分を戒める。


 毒を食らわば皿までだ、覚悟を決めて対処するしかない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る