一四 戌亥寺・台所

 時間は少しさかのぼる。かどわきあきは昼食の後片付けをしていた。春休み同様、夏休みも戌亥寺で過ごすことにした彼は悠輝と交代で炊事をしている。基本は悠輝が週四日を担当し残り三日を明人がやる。ただし稀に悠輝に拝み屋の仕事が入ることがあり、その時は明人が代ることにしていた。そのため昨日の夕食は彼が代わりに担当し、今日は正式な当番だ。


  紫織ちゃん、いつ眼を覚ますのかな?


 朝食も食べなかったので結構ご飯が余っている。成長期の彼女の食事量は半端ではない。紫織の分のおかずにラップをかけて冷蔵庫にしまっていると、廊下から何かを引っ掻く音がする。政宗が表へ出たがっているらしい。


 彼は紫織の部屋に居たはずだ。それに玄関の扉を引っ掻く音もどこか切迫している気がする。胸騒ぎを覚え、明人は玄関へ急いだ。


 玄関を開けると政宗が飛び出したので慌てて追う。政宗は山門の処で止り、下に続く石段を見下ろし唸り声を上げている。


  まさか、昨日の今日で動きがるなんて……


 タイミングが良すぎる。しかし常識ではあり得ないようなことが鬼多見家では割と頻繁に起るのだ。


 クルマのエンジン音が石段をおおう木々の向こうから聞こえて来る。しかも一台や二台ではない。今日は法事の予定も無いし、こんなに沢山のクルマが来るはずはないのだ。


  最悪だ……


 明人は政宗を促し、庫裏へきびすを返した。


 廊下を駆け抜け紫織の部屋へと向かう、従兄はそこにいるはずだ。


「ユウ兄ちゃん!」


 部屋のふすまを開けると悠輝と眼が合った。


「解っている、おまえは紫織と一緒にここにいてくれ」


 政宗が悠輝について行こうとする。


「二人を守れ」


 そう命じて彼は一人、部屋から出て行った。

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