六 カラオケ声量館 壱
悠輝が連れてこられたのは、駅前にあるカラオケボックスだった。
「悪いな、料亭じゃなくて。弱小野党は貧乏なんだよ」
一喜が所属している社会見廻り組は結党されてまだ一年にもならない。彼は数少ない衆議院の無所属議員だったが、同じく無所属の
「いいよ、早速本題に入ろう。誰にも聞かれたくないからここを選んだんだろ?」
悠輝の答えに一喜は微笑んだ。
「さすが、法眼叔父さんの息子だな」
「違う、赤の他人だ」
今度は苦笑する。
「まぁ、俺も苦手だ。だから、こうしてお前と会っている」
「で、何があったんだ?」
笑みを消し、一喜の顔は真剣その物になった。
「仏眼叔父のことは、どこまで知っている?」
佐伯仏眼は法眼の弟だが、悠輝は会ったことが無い。
仏眼は三男で、法眼が次男、そして一喜の父である
一方、慧眼は異能の類いは一切無く、法眼との関係も良好なので悠輝は幼い頃、一喜によく遊んでもらった。横暴な姉しかいない彼は兄が欲しかったので、従兄に会うのをいつも楽しみにしていたのだ。
「まず、
岳玄寺は法眼たちの実家で跡は長男の慧眼が継いだ。しかし、一番強い法力を持つ自分が継ぐべきだと主張し、異能を使い父と慧眼を排除しようとして、法眼に叩きのめされたと聞いている。
「でも、一昨年、仏眼は岳玄寺を……」
「ああ、色々根回しをして、お前の伯父さんから奪い取った」
一喜が言葉を引き継いだ。悠輝は暗い顔で頷いた。法眼が今度は止めなかった理由を考えると、仏眼が背景にしているものの強大さが判る。
「まぁ、それは構わない。どのみち跡取りはいないんだから、他の誰かに任せることになった。少し引退が早まっただけさ」
岳玄寺の跡取りは長男である一喜だったが、僧侶になることを拒否し政界に入った。彼の捨て台詞は「念仏を唱えても人は救えない、俺は人を救える仕事をする」だ。どこの寺でも跡取り問題に悩まされているらしい。
「伯父さんは納得してる?」
「もちろん不満はあるんだろうけど、いつも通り
慧眼は七〇歳を超えているはずだ。悠輝は思わず苦笑した。
「元気だね」
「だから、そっちは心配しなくていい。問題なのは求道会だ。あいつらが異能を使って民自の支持を高めているのは気付いているか?」
悠輝はゆっくりと首を縦に振った、彼らのやっていることは絶対に許されないことだ。しかし……
「残念だけど、おれは力になれない」
「『カルト潰しの幽鬼』なのに?」
「それは朱理……法眼の孫に手を上げたバカな呪術師が、爺さんに脅されて雑誌社に売り込んだ記事のキャッチコピーに過ぎないよ」
東日本で勢力を誇っていた『アークソサエティ』というカルト教団に姪の
彼等ですら悠輝の手には余った、潰せたのは仲間たちの協力があってこそだ。アークは政治権力に取入っており、彼は指名手配された。実際、身を護るためとは言え信者を殺めたのだ。不本意ながら遙香と法眼により無実とされたが、罪の意識は消えていない。
求道会は日本最大級の宗教団体だ、しかも政府与党と深く結びついている。確かにアークも警察や政治に影響力を持っていたが、求道会に比べれば可愛いものだ。
「仏眼一人でも厄介なのに、弓削朋美もヤツと同等の異能力を持っているらしい。それに加えて俺の知らない
「あいつらが民自党の支持を高めていることを、妨害することは出来ないのか?」
期待を込めてと言うより、出来ないことを確認するために一喜は聞いている。
悠輝は首を左右に振った。
「あれだけ不祥事を起こしても、日本中でこれだけ支持されるってことはかなり大規模に霊能者を使っている。でも群衆の思考を大幅に変更するのではなく、頻繁に思考の調整をしているんだ」
「調整?」
「異能に頼らなくても、政府は官僚の人事権を把握してるから役人たちは芦屋を忖度するし、内閣府はSNSを使って扇動しているだろう。それにマスコミだって……って釈迦に説法だね」
つい先日まで、国会で政府を問い詰めていた野党議員に言うまでもない。
「とにかく官僚と大手マスコミのほとんどは政府よりになっている。後は問題が起っても一定の国民が野党支持に回らないようにすればいい。好都合にも連立政権は失敗した。だから現政権はそれよりマシと思わせるんだ。これなら強力な異能は必要ない、上手くやれば映像でも効果がでる」
一喜の眉間には深い皺が刻まれていた。
「そんなことが可能なのか?」
「試したことは無いけど理論上は出来る」
「なるほど、東京だけじゃなく各地方のTV局やラジオ局、ケーブルTVにネット……見廻り組のコネクションじゃ、とても足りないな」
「そもそも、おれ一人じゃどうにもならない。それに、一番の問題は……」
「
『返りの風』とは呪術師同士の報復合戦のことだ。これが呪術師だけに向くならまだいいが、周囲の人々を巻き込んでしまう。遙香や法眼は心配ないが、求道会と対立すると姪の朱理と紫織、クライアントの御堂刹那や腐れ縁の探偵である
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