五 郡山駅

 新幹線の改札口をゆうは見回した。相手はまだ来ていない、行き当たりばったりで乗車するとのことだったので正確な到着時間は不明だ。悠輝も副業の途中で連絡を受け、遅れる可能性があったからお互い様かもしれない。


 彼がやっている副業とは拝み屋だ。怪現象に悩んでいる人の相談に乗るのだが、大抵は勘違いや思い込みで、それを依頼者に納得させるのが仕事になる。だが、今回は久々に違っていた。一般に、悪霊や怨霊などと呼ばれるモノがいたのだ。悠輝は自分が異能力者のクセに霊の存在を否定している、そのため彼はそういったたぐいを『思念体』と呼ぶ。


 依頼者は四十代半ばの女性で、彼女の住いには六人の男性の思念体が存在した。御堂刹那は思念体と会話ができるが、悠輝はそんな器用な真似は出来ない。ただ、相手の感情が伝わってくるだけだ。そして彼らから伝わってきたのは、いずれも依頼者の女性に対する強い怒りや怨み、憎しみだった。一つ一つならそこまで大きな影響はないだろう、六人分のおもいが積み重なり怪現象を引き起こしているのだ。


 鎌をかけてみたが女性は「自分は依頼者なのだから何とかしろ」の一点張りだった。この手の輩には何を言っても無駄と判断した悠輝は、依頼を断ることにした。そこで彼女はようやく自分のやったことを告白した。予想通り、彼らは保険金目当てで殺された男たちの思念体だ。


 悠輝は女に自ら警察に連絡させてから、彼らをはらった。夕方のニュースで大騒ぎになるだろう。巻き込まれたくないので事情聴取は験力を使いパスし、郡山駅へ来たのだ。


「悠輝!」


 顔を上げると、改札を抜けてビジネスバッグを肩に掛けた男が手を振りながら近づいてくる。


「一喜兄さん、久しぶり」


 彼が待っていたのは、衆議院議員で従兄弟でもある佐伯一喜だ。『佐伯』の名を聞くと少し懐かしい気がする。実は郡山に戻るまで働いていた電話占い『あいせん』の上司と同じだからだ。彼には世話になった。


「おう、五年ぶりぐらいか?」


 爽やかな笑みを浮かべる。


「十年以上会ってないよ。前、会ったのはおれが高校生の時だから」


「そんなになるのか? 仕事はシナリオライターだったよな?」


 悠輝は思わず苦笑した。


「そうなりたかったんだけどね、今はやってない。ほとんど拝み屋と……」


 言いかけて視線が自分たちに集まっているのに気付いた。一喜は国会中継やニュースなどでメディアに顔を出しているし、悠輝も冤罪だったとは言え、一昨年、指名手配され顔写真を公開されている。一喜が自分と一緒のところを見られるのは望ましくない。


「立ち話も何だな」


 一喜もギャラリーに気が付き、悠輝を促した。


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