第4話 勇者が女神に躊躇しない!

道具屋の前に行き着くと、爽やかな高身長イケメンとばったり遭遇した。翔太郎である。


出会って目がバッチリ合うと、翔太郎はなんだか物凄く嫌そうな顔をした。

ねえ何よその顔は。女神と目を合わせられるだけでも感謝しなさいよ感謝を!


こほん、と一つ咳払いをしてから、しれっと私から距離をとった翔太郎へ尋ねる。もちろん距離は詰めながら。


「本はもういいの?」


「大抵のことなら頭に入れてきた。もう十分だろう」


「へえ、この短時間で」


私が武器屋に行って剣と防具を買っているだけの間で、この街及びこの世界についてのことをだいたい理解したらしい。


そういえば戦闘に対するステータスしか見てこなかったけれど、もしかして翔太郎って頭もよかったりするのかしら。


何それ、イケメンで高身長で強くて、しかも頭もいいってこと? 何よ、天は二物を与えずって言葉ほんとに嘘ばっかりよね。こんなこと言ったらお叱りうけるかもだけど。


「じゃああなたもポーションを買いに来たの?」


「冒険には必要不可欠だと本で読んだ。他にも役に立ちそうなものがあれば購入しようと考えている、お前の金で」


「なんて大胆なヒモ発言……!」


いや、確かにこれから魔物と戦ったりしてお金を稼いでくれるのは翔太郎になるわけだし、これくらいのもの購入するのは別に問題ないんだけどさ。

私女神よ? ちょっとは申し訳なさそうな顔してくれない??


道具屋の行列を待っている間、私達は雑談をしていることにした。


「俺が図書館に行っている間、お前は何をしていたんだ」


「……あっ、そうそう。私武器屋に行ってたの。翔太郎の武器と防具を購入しておいたわ」


「…………」


何よその『いらないことしやがって……』みたいな顔は。


「いらないことしやがって……」


いや実際に言うな。


「いらないわけないでしょう! 戦うのに武器は必須よ。素手で戦う人だって居なくはないけど、翔太郎ってば丸腰だとまるで戦う気見せないじゃない! それどころか女神たるこの私に戦わせようとしたり、女神たるこの私を置き去りにして逃亡を図ったり!」


「違う、武器はもちろん必要だと知っている。だが自分が使う武器くらい自分で探すと言いたかったのだ」


「な、なによぉ……翔太郎が図書館に行ってる間、この私が善意で行動してあげたというのにぃ……」


「いらない善意はただのゴミだ。……それに、お前のような珍妙なものが買ったものなど使えるか」


「ちっ、珍妙ですって!? えっ珍妙!? 珍妙って言ったわよね!? もしかして聞き間違い!?」


「珍妙」


「言ってる! ちゃんと言ってた!」


よかった、私の聞き間違いじゃなかったのね。さすがにこの歳で耳が遠いのはちょっとあれだもの。


いやこんなこと考えてる場合じゃなくて。


「あのね、翔太郎? 確かに私は奇行や女神としてあるまじき暴言、はしたないまでの大声を発したりするわ。これは認める。でもこれはあなたの意味のわからない発言や勇者としてあるまじき行為、おまけに女神への尊敬が全く感じられないその不遜すぎる態度へのものであって、本来の私は清純無垢な乙女なのよ。元は人間だったと言うのに、死んでから心が清く麗らかであるという理由だけで大女神様に選ばれた女神なの!」


「あ、ポーションと煙玉を三十個ずつ。あと……」


「聞けよ!」


ねえ、私結構凄いこと言ったつもりなんだけど。女神が人間ごときに自らの過去を語るなんて本当はありえないことなのよ? 


でもこれからあなたと冒険していく上で、ずっと珍妙扱いされてちゃダメだなぁという理由でわざわざ教えてあげたというのに……! ぐ、ぐぬぬ……!


翔太郎は私の話を完全にスルーして、道具屋のお爺さんに注文を重ねていく。


勇者に煙玉そんなにいらないわよバカ! どれだけ逃げるつもりよ!!


「女神、25万レピスらしい。寄越せ」


「ねえ待って? お金はめちゃくちゃあるから構わないんだけど、何をそんなに買ったら道具屋で25万も使えるの?」


私が出し渋っていたら、翔太郎は私の懐に手を突っ込んでお金の入った皮袋を強引に取り出した。


女神は脱いだら謎の光線や湯けむりで体が隠れるらしいから別に構わないけど、男なんだったら絶世の美女相手してるんだから躊躇くらいしなさいよ躊躇を。手が早すぎて、胸まさぐられたのに恥ずかしいとか興奮とか一切なかったわよ私。


思わずため息をついていると、買い物が終わったらしい翔太郎に皮袋を投げつけられた。いちいち文句を言っていくのも面倒に感じてそれを懐にしまうと、翔太郎は思い出したかのように私に尋ねた。


「そう言えば俺に買った武器はどこにある」


「あら? やっぱり気になるの?」


「返品するにしてもモノを見てからじゃないとな。使えるものは使わなければ金の無駄だ」


もしかしたら翔太郎は元々大金持ちの一家の子息で、大金を使うことに躊躇いが無いのではないかと勘ぐっていたが、『金の無駄』という感覚が彼にあることがわかって安心する私。


なるほど、道具屋であんな大金を躊躇なく使えたのは、女神わたしのお金だったからなのね。よかったよかった……ってよかないわよ。


こいつもしかして私のこと金ヅルとしか思ってないんじゃないかしら。


「早く出せ珍妙な金ヅル」


なるほど、もっと低い評価だったみたいね。


私ははいはいと返事をしつつ、アイテムボックスから武器と防具を取りだした。そして物凄く怠そうな顔をして待っている翔太郎に、私はにやりと口角を上げてみる。


こいつは私が買ってきた武器に対して期待していないみたいだけど、「なんでこんなもの買ってきたんだ」なんて言葉は絶対に言わせないわ。だってこの剣はこの街の武器屋で一番の武器。これ以上なく強い武器なのだから。


私はまず初めに青白く光る剣を手に取って、スラリと引き抜く。


フフ、「自分の代わりにこんなもの買ってきてくださったなんて感謝します、エリスティナ様!」と地面に頭擦り付けさせてやるわよ、翔太郎!!




「…………なんでこんなもの買ってきたんだ」




何そのゴミを見るような目?





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