第14話 幼馴染と映画
土曜日、朝の10時過ぎ。
俺と凛は、電車に乗って隣町の映画館にやって来た。
「ついにこの日が来た!」
「何テンション上がっちゃってるんですか子供じゃあるまいし気持ち悪い」
「休日も通常運転でなによりだよ」
いつものつんとした表情で隣に立つ凛。
その姿に、思わず視線が吸い寄せられてしまう。
まず目につくのは頭にちょこんと乗せた赤色のベレー帽。
可愛い。
純白のスウェットはオーバーサイズでゆるっと柔らかい印象。
すごく可愛い。
ブラウン系のスカートからは白い足がすらりと伸びており、足元は白ソックスとローファーに包まれている。
超可愛い。
凛とした雰囲気の割に私服はふわっとした可愛い系なんだなと意外に思った。
まあ、そのギャップが非常に素晴らしいのだけれど!
でもそもそもの話、いつもは制服姿しかお目にかかれないため、こうして私服で着飾った凛はなんというか、とても良きだった。
「……なんですか、じろじろと」
「や、超可愛いなーと」
「か、かわっ……」
思わず心の感想を漏らしてしまうと、凛はかあっと頬をいちご色に染めた。
俺としては何気ない一言だったので、わかりやすく羞恥の感情を浮かべる凛に軽い驚きを覚える。
「ばっ、馬鹿なこと言ってないで、早く行きますよっ」
「う、うん。おけおけ」
動揺の色を含んだ声に従おうとしたその時、不意に昔の記憶が呼び起こされた。
「んっ」
ごくごく自然な動作で、凛に手を差し出す。
「……なんですかその手は?」
「や、ほら、昔よくやってたから」
疚しさも邪な気持ちも何もなく言う。
俺の言葉に凛はしばし目を丸めていたが、やがてぎゅっと唇を結び目を伏せたかと思うと、ぽつりと呟いた。
「……そういうところ、ほんとずるいです」
「ずるいって?」
「なんでもありませんっ」
差し出した俺の手を、凛は一瞬物欲しそうに眺めた、ような気がした。
しかしぐっと拳を握ったかと思うと、すいっと背中を向けて、
「もう、子供じゃありませんから」
「あら残念」
昔よく遊んでいた公園がパチンコ屋に変わってしまった時のような物寂しさを覚える。
でも仕方がない、これが時の流れというものなのだろう。
チケットを購入し、それぞれドリンクを買ってから入場する。
席に座り、映画予告を眺めながらふと思い出して口を開いた。
「そういえば今日の映画、結構『泣き』要素が入ってるらしいな」
「……何が言いたいのです?」
「や、凛ってこう見えて結構涙もろいじゃん?」
「こう見えて、の部分が引っかかりますね」
「キニシナイキニシナイ。だから、大丈夫かなーと」
「透君」
薄暗がりの中、むむっと眉を寄せた凛がじっと見つめてくる。
「今の私の涙腺を舐めてはいけませんよ。数々の泣きアニメを視聴し、幾つもの感情を乗り越えてきた私はもはや敵なしです」
「すんげえわかりやすいフラグが立ってる気がするんだけど、大丈夫?」
訊くと、凛は得意なゲームで勝負を挑まれた子供のような得意顔をして、
「フラグがしっかり回収されるだなんて、そんなの物語の中だけの話ですよ。執筆のしすぎで、とうとう夢と現実の区別がつかなくなったのですか?」
そんな言葉とともに、映画が始まった──。
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