NEW WORLD①

「くそっ! なんだんだこの世界の人間たちは!! この俺様をここまで追い詰めるなんて・・・!」

「申し訳ございませんデネブ様!! カリキュラムに妹学を入れていない、私シリウスの失態でございます・・・!」

「いや、シリウス、お前は悪くない・・・。これはこの俺様に王の器があるかどうか、人生で初めての試練なのだっ・・・!!」

「頭の悪い会話どすなー」

「おい何か言ったか、ベガ!」

「あら?お兄様も地球の訛り中途半端に覚えたんどすかー」

「・・・? いや、何か言ったべか?じゃなくてっ! なにか言ったべカ? じゃなくて、言ったベ、あれ?」

「うふふ、お兄様面白い」

袖を口元にあて、ベガは満足そうに笑った。

デネブたちの住む世界では、所謂魔法が一般的だ。地球との狭間に魔法のような力で作られた空間に、簡易的に作られたお城は、まるでこの場限りとは思えない豪華で、堅牢な見た目をしている。ちなみに、普通に丘野下家の上に浮いている。

「ふざけている場合ではないぞ、ベガ! 明日負けたら我々はこの星を諦めてみじめったらしく撤退せねばならん!! ・・・くそなんなんだあの男は!思い出すだけでも我が人生一番の屈辱・・・!」

初日に続き、2日目もあっさりと、デネブは冬史朗に敗北している。

水晶玉がランダムに出題するそれぞれの妹に関する100の問題への正答率で競う内容だ。血液型などのメジャーなものから、秘密、初めて腋毛が生えた日などのニッチなものまで出題された。いつの間にか仲良くなった両世界のギャラリーたちが飲めや唄えのバカ騒ぎをしながら見守る中、王家の維持を見せたデネブは正答率「57%」という高得点を叩きだした。兄妹のいる者ならわかるはずだが、これはオーディエンスも驚きで大歓声を上げる健闘ぶりだ。まして、幼少期からのベガへの苦手意識を持つデネブにとっては、我ながら土壇場の力と、もって生まれた運も再確認できる内容だった。もちろん、半分以上妹の詳細について答えられたデネブへ、ベガはゴミでも見るかのような目つきで讃えた。

そして、制限時間ぎりぎりでようやく終わらせた冬史朗は、「99%」でまたしても世界を守った。「初恋の相手」に対し、違うとわかっていながらもどうしても自分の名前を書いてしまい惜しくも100%を逃した。逃した上に、この問いだけは昔から考えるのを避け続けていたため思考が停止し、危うくタイムオーバーになるとこであった。

「本当に、面白い方どすなーあちらのお兄様」

ベガは嬉しそうにケラケラと笑う。

「しかしデネブ様・・・、明日奴めに勝つことができますでしょうか?」

「・・・勝つしかあるまい。なんとしても・・・」

『お困りかい王子様・・・?』

祭壇に祭られた水晶玉が、怪しく揺らめいた。

「なっ!?」

水晶玉はひとりでに浮くと、ゆっくりとデネブらの前へ移動してきた。

『珍しく苦戦しているじゃないか王子様』

「なんだ? まだ流されて妹の森と呼んだことを怒っているのか?」

『ちがうわいっ!! ・・・くそ、あの人間が絡み始めてから私のキャラまでブレてしまう・・・いけないいけない』

水晶玉は深呼吸をしているようだ。水晶玉の深呼吸というのは、まったく意味は分からないが。

『手を貸してやろうか?王子様よ・・・』

デネブは、ムッと片眉を曇らせる。

「このデネブ・スターをなんと心得るか! 俺様は約束は破らない! 戦いは、正々堂々行い、やつをこの手でひねりつぶす!!」

「さすが王子!」

感涙に咽びながらシリウスは立ち上がった。

「本題はこの世界を奪い取ることだった気がしますが、お兄様すっかりケンカに夢中どすなー」

『・・・そうかい、父親に似ず、まっとうな心を持っているねぇ。それではせいぜい頑張りな・・・』

「まぁまて」

グワシッ、と水晶玉はデネブの大きな手で押さえつかられた。

『この二日でこの私に対する態度が大分雑になっていないかいこのバカ王子!!』

「誰がバカ王子だ!! ・・・とはいえ、このまま大衆の面前で妹グランプリにあっさりと敗北するわけにもいかない」

「勝ち目が無いことは認めとるんどすなー」

「教えてくれ。なんだ策というのは」

『明日の内容に必ずこれを追加してやろう・・・』

ゆっくりと、水晶玉は宙に円を描き始めると、次第に速度を上げその軌跡は紫色のラインを作り出した。すると、ゆっくりと、その円の中から銀色の、先端から柄まで全て銀でできた剣が現れた。刀身は、ところどころ錆びついており、年季が入っている。

デネブは、剣を手に取った。持つ分には、普段手にしている剣と特段変わりはない。

一振り。

「おい、これはなんだ?」

『そもそもいつからため口になったんだい』

動きを止めた水晶玉は、またいつも通りの形で宙に浮いている。

『くくく・・・、これは、真実の剣、だ・・・』

「水晶のおば様、裏切りだの真実だの抽象的な言葉が好きどすなー」

『こいつはね、ちょっと変わった力を持った剣なのさ・・・』

「『・・・』が多くて話が進みませんなー」

『うるさいねこのメスガキ!! アバズレ!!』

「メスガキはメスガキやけど、アバズレはちゃいまんなー。まだまだピカピカの一年生やでー」

「おいまてベガ聞き捨てならんぞ!! 入学はしてるじゃないか! どこのどいつに一年生にされた!! 今すぐここに呼べ!!!」

『だーうるさいうるさいうるさーい!! 黙って話も聞けないのかいあんたらはー!!!』



丘野下家では緊急家族が開かれていた。

議題は明日についてだが、明日の最終戦についてではない。

白熱しているのは丘野下家の大黒柱であるところの父親と、そしてある日突然世界の命運を任された変態シスコンバカ兄貴こと長男だ。

「明日の雪の衣装はミニスカポリスだ! これは譲れん!!」

「親父は全然わかっとらーん!! そんな安直なことでどーする!! 雪の良さを最大限引き出せるのはこの俺しかいない!!!」

「やめなよおにいちゃんー!お父さんー!! こんなことで争ってる場合じゃないよー!」

変態の間で慌てる雪。

「雪。いいか? 真面目に聞いてくれ・・・」

「ええっ、なに・・・」

急に真顔で詰め寄る冬史朗に、思わず雪は身構えた。

並び立つふたりは、口さえ開かなければまるでおとぎ話の主役のような出で立ちだ。

世界の中心である居間で、明日までかもしれない地球の寿命を前に頭の悪い討論をするふたりを眺め、丘野下家の母親と熱いお茶を啜っていた美花は思わずうっとりと呟いた。

「画になるねほんと」

「ほーんと。お父さんの息子たちとは思えないわ。私のDNAだけ引き継いでくれたのねー」

美花は、大人の対応でスルーした。

「な、なに? おにいちゃん・・・」

「お前は世界一の妹で、俺は世界一お前を愛している」

「だから、弟だって!」

「そんな俺からお前にこれを託す」

そういって冬史朗が取り出したのは、チャイナ服だった。扇子もある。

「危機感をもてこのド変態ー!!」

美花が放った湯呑が冬史朗の頭に直撃し、お茶が雨のように降り注いだ。

「どわーっ、熱っ!熱っ! こら冬史朗!!お前も安直だろーが!! 熱っ!」

「そそそ、そうあぢょおにいちゃんー! お父さんと変わらないよー!!」

「いーや、ただのチャイナ服じゃない! ほれ、扇子(センス)もある!!」

その日世界の中心は、熱い雨もものともせず、凍りついたという。

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