第12話「ノエル・アタック」
「てなわけで、私は勝利したわけです!!」
「すごーい、お姉ちゃん!!」
リコラの孤児院の子供達も、先の闘技場での戦いは知っているのだろう。恐らくは耳に聞いた話だ。
「相手、強かったんでしょう!?」
「まあねえ……」
「すごーい、お姉ちゃん!!」
この古びた孤児院にいる子供達がここまで目を輝かせているのは、久し振りに彼ら彼女らにケーキが振る舞われた為であろう。ヴァイパーとの戦いで得たファイトマネーはかなりの額になったのだ。
「お疲れさまでした、リコラ」
「あっ、院長先生」
「しかし、まあ……」
痩せた枯れ木のような風貌をもつ初老の男、院長バラウはそう言いながら微かにため息をつく。
「あのガラフが、愛刀を貴方に与えるとね」
「院長先生は知り合いでしたよね、ガラフさん達と」
「まあ、そうですね」
リコラもこの院長、彼がガラフ達との昔馴染みであるとは聞いている。確かミッドなんとかという遺跡を踏破したほどの実力だ。
「まあ、ガラフもレイチェルも」
「はい」
「あまり、昔の事は思い出したくないのでしょう」
「は、はあ……」
確かにリコラも彼らが「みっどがるど」とか言う遺跡の調査に失敗した、その話は耳にしている。しかしその遺跡の詳しい事情はしらない。
「お姉ちゃん、羽を見せてー!!」
「見せてー!!」
その子供達の言葉に答えて、リコラはその背からウィングの基部を展開させる。これがためにリコラの普段着は背中が大きく開いた物、男を誘う服装をわざわざ買っているのだ。
「本当は嫌なんだけどね、こんな服……」
そう言いながらも、蒼い翼を拡げて見せるリコラの表情は満更でもない。未だに《
――――――
「青コーナー、Cランクノエル選手!!」
ノエルも本来ならばこうも立て続けに闘技場に出たくはない。しかし彼には。
「姉さんを、サタナキアの手から取り戻さなきゃな……」
もちろん、闘技を続ける目的がある。第一この頃負け続けで、借金も膨れ上がっているのだ。
「赤コーナー、ゲマー選手!!」
ゲマーと呼ばれたその男、その腕に銃器を固定したその男は編み込んだ髪を幾筋にも垂らし、感情の見えない不気味な目をノエルにと向けている。
「銃器の腕、俺と同じく武装系のマシンリムか……」
ならば勝機はある。ノエルにとってやっかいなのは、接近戦を挑んでくる相手やリコラ、そしてヴァイパーのように特殊な能力を持った相手だ。
「では……」
どんよりと曇った空、薄暗いその空の下で、二人の選手は対峙する。
「レディ……!!」
そのウサギ耳を着けた審判、その彼女の声を耳に入れながら、ノエルは自らのCランクマシンリム《
「ゴー!!」
ゴゥウン……!!
銅鑼の音と共に、まずはゲマー選手が動く、その腕に構えた銃器がノエルの
跳ねた足元を狙い射った。
「狙いが甘い、ならば!!」
ノエルには速度系のマシンリムはない、ひたすら生身でかわし続けるしかないが、それでも対処法はある。
ガゥ!!
《
「ゲマー選手、無言のままの攻撃だー!!」
今日は観客の数も少ない、昨日のリコラ対ヴァイパー戦が好カードだったせいもある。低ランクでありながらマシンリム自体は高級かつ派手なリコラ、そして「ルーキーキラー」として有名なヴァイパーの戦いだったのだ。
「俺にも、AランクやBランクのマシンリムがあればな!!」
そう、ゲマーからの銃弾を避けながら罵っても何も始まらない。マシンリムのその内半分は先天的な物であるし、新マシンリムや改造はお金に余裕がある者だけが出来る事だ。
「そら!!」
バゥウ!!
逆手での炸裂弾放出、同じくCランクマシンリムである《
「やるな、小僧!!」
ゲマーからの初めての声、低くくぐもったその声を耳にと入れながら、ノエルは《
「サタナキアのチームである俺に手を出したら、どうなるか解っているか!?」
「何!?」
サタナキア、その名を聞いたときノエルの身体が微かに震え、その《
「そらよ!!」
ゲマーから放たれた銃弾、それがノエルの左腕を捉え、彼の《
「《
機能停止、その知らせを自身の左目に受けたノエルはリング上で一回転して、牽制の為の銃弾を放った。
「けっ、そんなチンケな武装系のマシンリムで、俺の《
「同じタイプか!!」
「扱う人間に違いがあるがや!!」
そのままゲマーはノエルとの距離を詰め、銃弾がなお一層集中するようにその手に力を込めた。
「サタナキア一家が!!」
ピィ、ガゥ!!
「ノエル選手の銃撃、ゲマー選手に効いていないー!!」
恐らくはこのゲマーという男は身体にもマシンリムを仕込んでいるのかもしれない。そのノエルの《
「サタナキアの者に手を出したんだ、このまま生かして終らせねぇぞ……!!」
「……」
降参することは簡単だ、しかし相手がサタナキアの者であればそれは死んでもしたくない。まだ奥の手もあるのだ。
「あばよ、小僧……」
そのゲマーの腕、そこに取り付けられた《
バァ!!
ノエルの身体が大きく跳ね、ゲマーの身体にと取りついた、その手のひらからは飛び出し式のナイフが、ゲマーの咽にとその切っ先を突きつける。
「うっ!!」
「降参しろ、サタナキア!!」
「て、てめえよくも……」
「俺は本気だ!!」
その言葉を証明するかのように、ノエル少年のマシンリムにと内蔵された小振りのナイフがゲマー選手の喉に軽い傷を付けた。
「エイト、ナイン……!!」
そのカウントの間にも、ノエルのランク外マシンリム《
「テン!!」
ゴォン……!!
「ノエル選手の勝利です!!」
「ふう、ふう……」
荒い息を吐きながら審判の声を耳にと入れるノエル。疲労しながらもそのまま彼は、自身に対して憎しみの視線を向け続けるゲマーに、冷たい視線を注ぎ続ける。
――――――
「エキジビション?」
「ええ」
リコラはレイチェルの事を知っているようで知らない。彼女が闘技場を開催している組合とどういう関係にあるのかは解らない。
「野外闘技場Bランク、リコラ選手がその選手に選ばれたわ」
「あたしの他にも、もっと強い人がいるはず……」
「ルーキーキラーと恐れられた、あのヴァイパーを倒した」
「偶然ですよ」
「偶然も実力の内よ」
そう言いながらレイチェルは軽くウィンクしてみせ、そのまま彼女リコラのその肩を軽く叩く。
「勝っても負けても賞金は出る」
「は、はい……」
「良い話じゃない」
そう言いながら、孤児院の玄関を出ていくレイチェル、その時リコラは。
「あ、あのレイチェルさん」
「ん?」
「あたしの母さんの事なのですが」
「……」
かねてより聞きたかった事、今まで彼女レイチェルやガラフ達、そしてバラウ院長の事を気遣って聞かなかった事柄を聞こうとしたが。
「リコラ」
「はい」
「あなたの相手は、アストラリーカ」
レイチェルの舌は、答えを言わなかった。
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