廃墟での裏取引_1
盗賊から奪った宝物を精査し終わったヴィスとセーラは疲れ切った顔を浮かべていた。
結局、くてくては呪われた女神像一つしか見つからず、後は、そこそこな値で売れそうな良さげなモノしかなかった。
都合よくくてくてが7つ見つかればなんてヴィスは思っていたが、そんな都合のいい展開になるはずもなかった。あるかもと期待していただけに、疲労感が半端ない。
「セーラ、すごく助かった。疲れただろう」
「はい師匠、ものすごく疲れました。だからそこで転がっているの、一発殴ってもいいですか?」
セーラは酒瓶を抱いて笑顔を浮かべる駄目女ことアティーラを指差す。
外でお漏らしをして盛大に泣いていたアティーラだが、セーラの殴らせてほしいという優しい説得とお世話、そしてお酒の力によって機嫌を直した。それだけならよかったが、宝物を精査しているヴィスにも酔っ払い駄女神は絡んでくる。
少々ウザくなったヴィスとセーラは、アティーラを煽って泥酔させて眠らせた。酔っ払い駄女神はお酒で気持ちよく眠れただろうが、ヴィスたちはお宝の精査という仕事が残っている。これをするのとしないのとでは、売値に差が出てくるため、やらないという選択肢はありえない。
アティーラの世話と宝物の精査という苦行を乗り越えて、気が付けば空が明るくなっていた。
ヴィスとセーラは仕事をしつつダメで屑過ぎるアティーラの世話をしているのに、世話をされているアティーラは気持ちよさそうに寝ている。借金に追われて苦しんでいるようには思えない、能天気な寝顔だった。
「なぁ、こいつの顔見ているとすごくイライラしてくるんだが、なんで俺たちがこいつの面倒を見なくちゃいけないんだろうな」
「師匠の言う通りですよ。借金もこいつの自業自得じゃないですか。馬鹿じゃないんですか、殴っていいですか」
「くかぁ~~~~~げふ」
「あ、ちょっと寝ゲロしたっぽいんでやっぱり殴りたくないです。こいつ汚い。女を捨ててますよ」
「そりゃ、賭博で借金を追う女だ。普通の女とは違う、普通の女とはな」
「実際こんな女いないですよ。私でもここまで酷くない」
「セーラ、お前もう少し自分のこと理解しような」
「…………ふぇ?」
ヴィスから言わせれば、賭博で借金を追い、酒瓶を抱いて半裸で寝る、自分のことが一切できないだらしない駄女神と、人を殴りたくてうずうずする狂犬じみた皇女様なんてどっちもどっちだと思っている。
汚いとかダメな方向性は違えど、間違いなく人間としてはダメな部類に入っているのは間違いない。
「ふう、とりあえず……こいつを板に括りつけて運ぶか」
「え、これ持ってくんですか」
「万が一があった時の生贄ぐらいにはなるだろう」
「それもそうですね。借金女でもそれぐらいの役には立ちますよね! 今板に括りつけます。あ、直接触りたくないので手袋してもいいですか」
「ああ、それぐらいなら構わないだろう。おれも汚いこいつを直接触りたくないからな」
アティーラの扱いはさんざんなモノであったが、セーラもヴィスも気にすることはなかった。
と言うか、出会った頃から今に至るまで、アティーラの扱はこんなものだったので、それが当然のものだろうという考えが定着してきているのだ。男だろうと女だろうと、借金まみれで破産しそうになったギャンブル中毒者ほどダメな人間はいないので、アティーラの存在はヴィスたちの中で一番下に位置付けられた。
かといって奴隷のように扱ったとしても、どうせギャンブルで更なる借金を背負い、さらに厳しい状況に追い込まれてしまうのが、借金の女神……じゃなくて賭博の女神アティーラなのだ。
適当に扱うぐらいがちょうどいい。
「師匠、括りつけました。ところでこれからどこに行くんですか?」
「ああ、俺達がこれから向かうのは、とある廃墟だ」
「とある廃墟?」
「ああ、そこにはちょっとした怪しい商人がいてな。訳アリ品でも平気で買い取ってくれる。知る人ぞ知る名店なんだ」
「この国にはそんな商人がいるんですね。私の国では考えられな商人です。まさに外道です」
(そこまで言われるような商人ではないんだが……)
国が違えば価値観も変わる。きっとセーラの国には、訳アリ品まで何でも取り扱う怪しげな商人なんていないのだろう。なんたって神聖セルーア帝国なのだから。
ヴィスは持っていく宝物を整理して、荷物を袋に入れていった。宝物の入った袋を丁重に背負い、出発の準備を整える。
一方セーラはというと、アティーラが括り付けられている板を荒々しく豪快に背負い、アティーラがうつ伏せ的な姿勢になるようにした。
「うっぷ、おぇ」
アティーラの口から虹色のモザイクがかかっていそうな液体がたれ流れるが、姿勢がうつ伏せなので、床に垂れ流れる。この姿勢こそ、セーラに被害が出ない一番いい持ち方だったのかもしれない。
ただ、アティーラがゲロった場所が悪かった。
「あ、こいつ吐きやがった! クッソ、ここはお前の家じゃないんだぞ。酒を飲むにしろリバースするにしろ、外でやれってんだよ。くそ……。今度吐きやがったら全裸にして板に括り付けて、外でさらしてやる。そして見物料として1回1000ギリぐらいは稼いでやる」
思いついた稼ぎ方がよさげだと一瞬だけ思ったヴィスだったが、すぐに風俗法違反していることに気が付いて、その罰を実行するのをあきらめた。
アティーラは法律に救われた!
「とりあえず、俺が掃除しとくから、セーラはそれを外に出しておいてくれ」
「分かりました師匠。ついでにたくさん揺らして胃の中のものをぶちまけておきますね」
「やめれ、家の周りが臭くなる」
誰もアティーラの心配をすることなく、着々と準備を進め、そしてヴィスたちは廃墟に向かうために家を出た。
◇◆◇◆◇◆
さすがに板に括りつけているゲロ女ことアティーラをほかの住民に見られるとまずいため、ヴィスとセーラは人目に付かないようにこっそりと廃墟に向かった。
こっそりと言っても、アティーラの汚い悪臭のせいで住民に若干気づかれつつあったが、まあ何とか乗り切った。
悪臭は日差しが強くなると共にひどくなる一方で、足が進むためにセーラとヴィスの表情が険しくなる。
「師匠、これ、捨てて行っていいですか」
「俺も早く離れたいな……マジで何なんだよこの謝金女」
「すやぁ…………はっ! ナニコレ、一体どういう状況! うっぷ、気持ち悪い。揺らさないで……」
どうやらアティーラが目を覚ましたようだ。二日酔い的な状況で板に括りつけられて、激しく揺らされれば誰だって気持ち悪くな牢だろう。だからと言ってアティーラの為にやめてあげる二人ではないのだが……。
「ちょ、やめて…………きもちわるぅ、ってなんで私こんな格好なの。というかここどこ!」
なんの説明もされなければ当然混乱する。アティーラは慌てふためくが、セーラとヴィスは特に気にするようなことはしない。
「大丈夫かセーラ。うるさそうだったら捨てていいぞ」
「大丈夫です師匠。あとこれをそこら辺に放置すると人道的に間違っているような気がしてしまいますので持っていきます。これでも一応正義のヒーローを目指していますので」
「そういえばそうだったな。でも大丈夫だ。そこにいる借金女は、世界の害悪でしかない」
「それもそうですね。厳しいようだったら処分します」
「ねえ二人とも! 私の扱いひどくない!」
アティーラは騒ぐがヴィスもセーラも特に気にすることはなかった。
別にアティーラがうざいとか、邪魔とか、かかわるのがめんどくさいとか、そういったことは半分ぐらいしかない。
目的地に着いたのだ。
廃墟の奥から、ゆらりとマントをかぶった怪しい人物が現れる。ここが商談、いや、お金を稼ぐための戦場だった。
「行くぞセーラ。かなり儲けてやろうぜ」
「はい師匠!」
「ちょっと二人とも! もうちょっと私のこと気にしてよ、ねえお願いだから、本当に……お願いだからこっちの話を聞いてぇぇぇぇぇぇぇ」
アティーラの扱いは、相手側が現れても相変わらずそのままだった……。
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