弟子と師匠と呪われた宝物_5

「ヴィス! もしかしてもしかすると、これがくてくてなの! すごい! 借金返済のカギがこんなところで見つかるなんて」


 アティーラが無邪気な笑みを浮かべながらヴィスから女神像を奪っていく。

 ちなみに、ヴィスは、今まであってきた女神様の祝福により、呪いにある程度の耐性を持っている。そのため、呪いの女神像という名のくてくてを持っても特に目立った影響は出ていない。これはヴィスだからこそできた芸当だ。


 それに、セーラは神聖魔法という、邪気や魔を払うことに特化した魔法が発展した国、神聖セルーア帝国の皇女様だ。セーラが触っても、お得意の神聖魔法で呪いの効果をどうにかしてしまうのだろう。

 女神像の呪いを直接解かなかったのは、きっとめんどくさかったからに違いない。


 だけどアティーラは違う。ただの女神だ。女神という言葉だけ聞くと神聖なイメージを持たれそうだが、アティーラは賭博の女神。つまりダメで愚かでどうしようもない、女神としても最底辺と言えるほど落ちぶれた、ダメな女神なのだ。

 ヴィスはアティーラが女神像の呪いをどうのこうのすることはできないと思っている。普通の仲間なら止めただろう。だけどヴィスは違う。真正のくず男だ。


(ははは、これで呪いの効果が見れるぞ。効果の分からない呪いを解くよりは若干安くできるはず)


 セーラに頼むという方法に至っていないヴィスは、アティーラで実験して効果を試し、呪いの解呪にかかる費用を抑えようとしたのだ。かなりくず的な行動だとは自覚しているが、別にアティーラだからいいかという気持ちもあったりする。だんだんアティーラの立ち位置が定着してきたようだ。


「こ、これがくてくてぇぇぇえええぇっぇ」


 女神像を持った瞬間、アティーラがへなへなになりながらその場にうずくまる。ほほがほんのりと赤く染まり、内股になりながらもじもじし始めた。


「おい、どうしたんだよ。急にもじもじし始めて。接客でもしたくなったのか?」


「この状況をどういう見方をしたらそんな考えにいきつくのよ! そんなわけないでしょう。うう、なんで、なんでこんなタイミングで……」


「あ、わかりました!」


「お、セーラ、何か気が付いたのか」


「呪術については任せてください師匠!」


 セーラが何か気が付いたようだ。得意げなどや顔を浮かべている。アティーラはセーラに希望のまなざしを向けるも、もじもじがだんだんひどくなっていく。だんだん我慢できなくなってきたから早くしてくれと目で訴えているようだ。


 セーラはそんなまなざしに気が付かない。慌てふためくアティーラだが、セーラはセーラでヴィスに自分のすごいところをアピールしたいという様子がうかがえる。

 すれ違う二人をはたから見ているヴィスは、もうニヤニヤが止まらない。果たしてアティーラはどんな悲惨な目に合うのだろうかと思うとわくわくする。人の不幸は蜜の味なのだ。


「この呪いは、人が最も嫌がる恥的な感情を高めるために、それはもう色々な現象が起こってしまう呪いです。もじもじしてるってことは、最近お漏らしでもしましたか?」


「そ、そんなわけないじゃない!」


「と、アティーラが言っているが、それは嘘だ。この前、大勢の人がいる中で盛大に漏らしたぞ。それはもう盛大に。その後大泣きしたな。笑ったわ」


「なんでばらしちゃうのよ! ひどいよヴィス……」


 アティーラにもし恥じらいゲージがあるなら、もうすぐマックスになりそうなぐらい赤面している。それと同時にもじもじの速度が速くなった。こんな場所で漏らさないでほしいので、ヴィスはアティーラの襟首をつかむ。もちろん、途中で漏らされても退避できるよう、慎重に持ち上げた。


「さすが師匠。すごい力ですね」


「大丈夫だ。俺の教えに従えば、これぐらいの威力でアティーラを殴れるようになる。だからがんばれ」


「はいっ!」


「ちょ、ちょっと待ってよ。私が殴られることになってんですけど!」


「あ、このくてくては俺がもらっとくわ」


 アティーラが持っているくてくてくをヴィスが奪い取る。


「あうぅ、ちょっと返してよ。私のくてくてなのよ、おおお、あうううううう」


 女の子が出しちゃいけないような声が聞こえた。アティーラの限界は近い。


「それから部屋を汚されたくないから、さっさとそのに行きやがれェ」


「ちょ、ま、今はらめぇぇぇえぇぇぇぇぇぇ」


 問答無用とばかりにヴィスはアティーラを外に放り投げた。我慢の限界だったアティーラは、地面を転がると同時に尊厳などいろんなものを垂れ流しながら失った。


「うわぁぁぁぁん、ヴィスのばかぁぁぁぁぁぁぁ」


「けっけっけ、欲に負けて呪われたものを俺から奪うのがいけないんだよ」


「うわぁ、そのゲスさが強さの秘訣なんですねっ!」


「ああそうだ。アティーラ相手にゲスな行動が取れるようになったとき、お前は好きな時に好きなだけ人を殴れるようになる」


「おおおおおお」


 ヴィスは、自分自身ろくでもないことを皇女様に教えているなと自覚しつつも、それをやめようとはしなかった。

 くてくてが見つかった今、アティーラのことが邪魔になったので排除しようとしているわけではない。

 若干その気持ちもないわけではないが、くてくてが呪われたアイテムとして見つかった以上、セーラの力は必要不可欠だ。

 ヴィスが見た感じ、たまたま盗賊の宝物から見つかったくてくては、セーラが解呪できそうだが、万が一にも手に負えなさそうな呪いがかかったものを見つけた時に、セーラが実力不足では困る。

 これは全て、くてくてを集めるために必要なことなのだ。

 そういうことでアティーラに納得してもらおうとヴィスはほくそ笑む。

 非常に残念な目的に扱われそうなアティーラと言えば……。


「うぇぇぇぇぇぇん、どうしてこんなことになるのぉぉぉぉぉ」


 お外で盛大にお漏らしをしていた。まあやったのはヴィスだが、本人は何も気にする様子はない。元々ヴィスの手から勝手にくてくてを奪ったのが原因だ。今回のは自業自得である。助ける手段があっても何も言わなかったのも、アティーラに助けを求められなかったからだ。決して、ヴィスが悪いわけじゃない。


「あの、師匠、それの呪いどうしますか。すぐに解呪できますけど」


「ああ、よろしく頼む。これは結構重要なものなんだ」


 セーラに呪いを解いてもらう。これでくてくてにかかっていた呪いが解かれた。ヴィスは、盗賊の宝の中に他にくてくてのようなものがないかを探してみたが、残念なことにくてくては見つからなかった。

 だが売れそうなのはたくさんあったので、それはそれで満足だった。


「セーラ、お前には頼みたいことがある。これは重要な、修行のようなものだ」


「はい師匠! 私、なんだってやります!」


「よく言った! まずはあそこを見ろ」


 ヴィスは外で泣いているアティーラを指差した。


「まずはあいつを処理してこい。殺せって意味じゃない。練習台として使えるようにして」


「師匠……私にもできることとできないことがあるんです……」


 さっきの言葉はどうした?

 なんだってやりますと言っていたセーラがとても嫌な顔をした。ヴィスは、なぜにあいつの世話ができないのか聞いてみる。


「だってお漏らしですよ。おしょんでべちょべちょですよ。そんなの誰が好き好んで触りたいと思いますか。いい大人なんですからそのあたりしっかりしてほしいですよね!」


「でもまあ、あいつは借金の女神だし……無理じゃねぇ?」


「それを言われると納得してしまいます。分かりました。浄化の魔法くらいはかけてあげましょう」


 そんな二人の話を聞いていたアティーラはと言うと……。


「もうばかぁぁぁぁぁぁぁ、なんでそんな適当な扱いなのよぉぉぉぉぉぉ」


 自分の状況に嘆いていたという。まあ、借金の目が見なわけで、これはこれでいいポジションにいるのではとヴィスはちょっぴりだけ思った。

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