第3話

 私が何らかのきっかけで彼の名前を知れたら良いなと思っていた矢先に彼の姉弟だと思われる子から「ハルト」と呼ばれていたことや友達思われる子から「ハルくん」と呼ばれているのが聞こえた。これでの名前がはっきりした。


 私は突然彼の名前を呼んだらどうなるのかな、という小さい子に対する好奇心もあって


「ねえハルくん。」


と声をかけた。すると慣用句にある通りそのままに大きく目を見開いた。


「お姉ちゃん何で僕の名前知ってるの?」


このまま素直に答えたら面白味がない。そこで小さい子が憧れるような、架空の世界を作り出してその設定で話を進めていこうと思い付いた。


「それはね、お姉ちゃんが何でも知っているからだよ。ハルくんのことは。」


「ほんとに!じゃあ、知っている僕のこともっと教えてよ。」


 私はここまで言われて相当後悔した。後先考えずに口から出任せがすらりと出てしまったことにである。どうにかその設定を外れないように頑張って言ってハルくんに喜んでもらえるような、そういうことをしたいと心の底から思った。


「まずはね、上の名前はヤマミでしょ。」


これはどこの家の子かくらいは最初から分かっていたので一番大きなところを最初から言ったことになる。このあとからが苦しい限りである。


 ただハルくんは最初からの大物に対して目を輝かせてくれて憧れのアイドルに会えた女子高校生みたいにも見えた。こんなにも喜んでくれるとは到底思っていなかったので私の方も嬉しくなっていく。


「あとはね、お兄ちゃんとお姉ちゃんがいるよね。」


これは元から知っている情報を繋ぎ合わせていくとできる答えだった。正直、元から持っている情報をもとに作り出せる情報はこれ以外にはなかった。そのため、これ以降のことは当てずっぽうに近いところもある。


「わあ、お姉ちゃん何でも知ってるんだね。」


彼なりのお礼のようにも感じられる言葉だった。そしてこれ以上はもう大丈夫だよというストップの合図でもあった。何とか乗り切ったのである。

 

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