君のアフォガートで使われるコーヒーだけが好き
城崎
話
私はコーヒーが苦手だ。理由は簡単、苦いからである。はじめて飲んだときはあまりの苦さに、思わず吐き出しそうになったくらいだ。あれ以来、どうしてこんなにも苦いコーヒーが人間の生活に根付いているのだろうという疑問が絶えない。
だからいつもは甘いスイーツを私に振る舞ってくれる後輩君が、熱々の黒い飲み物を取り出したから驚いた。久しぶりに見るからか、なんだかやたらと黒いように思える。
「なんで!? 私、キミに嫌がらせとかしたっけ!?」
「嫌がらせに似たものは、毎回受けてますけど」
「あ、あれは一種の愛情表現というかなんというか」
「知ってます。だから俺も、甘んじて受け入れているんですよ」
「じゃ、じゃあ尚更なんで」
後輩君は、私の好き嫌いくらい難なく把握しているだろう。それなのに、どうして。
「先輩、アフォガートって知らないんですか」
「……あほがーと?」
「先輩が言うと、途端にアホっぽくなりますね」
「現在進行形で、キミに嫌がらせを受けています!」
「俺は先輩のそういうところが好きなんですよ」
「あんまり素直に喜べないよ……」
「そんなことより、先輩の苦手なコーヒーを使ってはいますが、これも素敵なスイーツの一つなんですよ」
「そうなんだ?」
「はい。アフォガートの意味はイタリア語で溺れる……その言葉の通り、コーヒーでバニラアイスを溺れさせるようにかけるのです」
言いながら、熱いコーヒーをバニラアイスにかけていく。ゆっくりと、コーヒーの流れにそって溶けていくバニラアイス。良い香りが辺りに広がり、わっと声を上げてしまった。
「とても素敵に思えてきた」
「そうですか。それなら是非、召し上がってください」
スプーンを彼から受け取りつつ、アフォガートの名前を口の中でくり返す。
「アフォガート、溺れる……」
「それが、どうかしましたか?」
「いや、私にぴったりな言葉だなって思って」
よく分からないと言いたげな後輩君に、私はめいっぱいの笑みを返す。
「だって私は、愛に溺れるくらいキミのことが好きだから!」
いただきますの声をかけ、バニラアイスを口に含む。コーヒーがかかっている部分はたしかに苦いけれど、それ以上にアイスの甘さが勝っていた。
君のアフォガートで使われるコーヒーだけが好き 城崎 @kaito8
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