第14話「バラバラのパーティ」
グレンは三人でパーティを組んだことを後悔し始めていた。
戦闘中のことである。
グレンが難敵に苦戦していると……
「グレンくん、その敵は私が引き受けます! 一度後退して回復してください!」
「グレン、この魔結晶を使って! 触手で魔物を足止めできるよ!」
指示が二人同時に来た。
戸惑ったグレンは、自分のほうから作戦を提案し直そうと二人のほうをチラと見る。
「ちょっと待ってくれ。それなら――」
しかしながら二人はグレンのほうなど見ていなかった。女子二人で睨み合いながら、それぞれが我先にとグレンの支援行動に移っていた。
「魔結晶など要りません! すぐに後退してください、向かいます!」
「ううん、後退しないで! 今、アイテムを投げるから! そのままだよ!」
「いや、ちょ、待っ……」
対応できなかったグレンはあえなく、前に出てきたソフィアにお尻で突き飛ばされて「ぐえっ!」と転倒し、しかもその拍子にアヤメが投げてきた魔結晶をバキッと踏み潰してしまった。
「う、うわあああああ!!」
意図せず発動させたローパーの触手の魔法が暴発、グレンはウネウネした触手に雁字搦めにされるのだった……。
数秒後、ソフィアが魔物を倒して戦闘は勝利したが、まだグレンは触手拘束されたままだった。気持ち悪い、動けない。
「グレンくん、ご無事ですか!? いつもなら簡単にできていた連携なのに……」
「グレン、大丈夫!? 誰かさんがグレンを突き飛ばしたせいで……」
ソフィアがムッとした表情でアヤメを見る。
「いえ。そもそも私が囮になるだけで充分であり、あの魔結晶は必要ありませんでした。しかも、ローパーの触手なんて魔法は趣味が悪過ぎます。拘束魔法なら他にもたくさんあるはずです。所有者の人間性が疑われますね」
アヤメもキッと睨み返す。
「べ、別にわたしの趣味なんかじゃないよ! 一番安かったの! コスパ!」
「そういえば、以前グレンくんにその魔結晶を渡したのはあなただそうですね?触手の餌食になったのは私でしたが、そんな気持ち悪い魔法を使わせて、グレンくんを汚すような真似はやめていただけますか?」
「は!? 汚す!? 汚らわしいのはそっちのほうだよ! あのときグレンに触手拘束されてちょっと喜んでたの、わたし知ってるんだからね!」
「くっ……違います。縛られたのを喜んでいたのではなく、私は――」
そして始まる子供のケンカのような口論。グレンは触手拘束されたまま放置されていた。
「いいから誰か助けてくれないか……」
――こうして、グレン一行はダンジョン攻略の最中、定期的に修羅場の泥仕合を繰り広げていた。
口喧嘩だけならまだしも、もはや妨害工作と化している二人の支援行動によって、戦闘に支障が出ているのはマズい。
そう考えたグレンが、二人を説得しようと休憩を提案したときだった。
「あ。下で別のパーティが戦ってる。見かけないギルドだね」
アヤメが吹き抜けになっている下の階を見下ろしながら言う。「挨拶しとく?」
グレンも隣に立って見てみるが、確かに知らない顔だった。十数人もいる大所帯のパーティで、年齢もまちまち。貴族らしき贅沢そうな服を着た者もいれば、恐らく傭兵だろう筋骨隆々の戦士もいる。都の数ある有力ギルドのような雰囲気だが、誰一人として知り合いの冒険者は見当たらなかった。
しかし、ソフィアは違ったようだ。
「ホーリーナイツ……」
少し悲しげな表情でそのギルドの名を呟いた。
【ホーリーナイツ】そういえば他にもどこかで聞いたような。
「知ってるのか、ソフィア?」
グレンがそう聞こうとした直後、アヤメの歓声に掻き消された。
「グレン、見て! なんだろあの魔法! すごい!」
アヤメが煉瓦の縁から身を乗り出すほど興奮していた。
何事かとグレンはもう一度階下に目を向ける。
……僅かな時間だがホーリーナイツの戦闘を見ていたが、雰囲気だけで実力はB級程度だなとグレンは感じていた。
貴族の若者の冒険者たちも経験不足が否めずもたついた戦いぶりだし、傭兵たちも個人の実力はあるのだろうが、連携が取れておらず即席パーティのような印象だった。
対して魔物の群れは、いつだったかグレンを追いこんだグリムリーパーとキマイラの強力な編成である。
この戦闘において、ホーリーナイツは十数人の大所帯で頭数の面でも優勢のはずだったが、実力不足やまとまりのなさが災いし、苦戦を強いられていた。
しかし――
たったひとつの召喚魔法が、局面を一変させた。
リーダーらしき貴族の少女が右手に填めた指輪を天高く掲げてみせる。紫色の魔装石を光らせ、使用したのは――
【メドゥーサの首】
広範囲の対象を石化させる、AAA級レア魔装石の超高等魔法だった。
蛇の髪を持つ魔女の首が、目を怪しく光らせる。
メドゥーサの不気味な眼光を浴びた途端、グリムリーパーやキマイラの魔物の体は、灰色の石へと変化していった。まるで精巧な石像のように堅く固まり、そのまま命尽きたように動かなくなる。
強力な魔物の群れが、魔装石ひとつの力で、一瞬にして全滅した。
「……なんて力だ。なぜ中級レベル程度の冒険者が、あんな激レア装備を?」
「すごーい!」と歓声を上げるアヤメに気づき、ホーリーナイツの面々がグレン一行のほうを向く。
その中で、メドゥーサの首を召喚したリーダー格の少女は、ソフィアとグレンの姿を見つけると、猪突猛進の凄まじい勢いでこちらへと向かってきた。
ズダダダダ!と足を踏み鳴らして走ってきて、上へと登る足場をポンポンと駆け上がってくる。
そして、
「ようやく追いつきましたわ。あなたが、諸悪の根源、グレン・エクシードですわね?」
リーダー格の少女は、宣戦布告でもするように、フェンサーの剣先をグレンの顔へと向けたのだった。
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