第12話「謎の新興ギルド」

 グレンは冒険者協会の看板の下をくぐり、ビッキーに会いに来ていた。


「アヤメちゃんが、行方不明?」


「ああ。事件性がある大事ではないんだが……探しても見当たらないんだ。ギルドハウスにも帰って来ていないらしい」


 アヤメが住んでいるのは風の旅団の寮だった。ギルドメンバーでない限り内部に立ち入ることはできないので、グレンは知り合いに尋ねることしかできなかったが――

 

「居留守つかわれてるわね。さっき用事で訪問したら居たわよ。でも、なんか落ち込んでいる感じだったわね。先輩女子に慰められながら、ちまちまお茶すすってた」


「…………」


「あんたたち、ケンカでもしたの?」


「いや……ケンカなんて今まで一度もしたことないが」


「一度も!? 子供の頃から十数年も一緒にいるのに?」


「ああ。あいつ昔から性格は明るいけど、俺に対してはぶつかってこなくて、意外と後ろからとことこ付いてくることが多くて――」


 グレンはそこまで口にして、頭を抱えた。昔から兆候はあったようだ。


「じゃあ、もしかして【ホーリーナイツ】と関係ある?」


「ホーリーナイツ? なんだそれは?」


 見当外れな問いかけだった。聞き返す。


「二ヶ月くらい前に旗揚げした、新興ギルドよ。貴族のお坊ちゃま方が道楽で作ったようなちゃちいギルドだったんだけど、最近は高レベルのB級ダンジョンも攻略するほど成長してる。だから有名なんだけど、知らないの?」


「新聞のギルド欄は飛ばしてる」


「ソロだもんね、興味ないか。でも、あっちはグレンに興味あるみたいよ。いろいろ訊かれたわ。人柄とか、実績とか」


「なぜ俺のことを……?」


「さあ? 個人情報は話さないって速攻で突っ撥ねちゃったから、詳しくは知らない」


「意外に口が堅いな。ぺらぺら喋りそうなイメージだったが」


「信用ないわね~、お姉さん悲しいわ。よく知らないポッと出の貴族なんかに親切にしないわよ。常連で頑張り屋のグレンくんは、ト・ク・ベ・ツ、だけどね」


 語尾にハートマークでも付きそうな声色で媚びてくる。

 そうやってからかってくるから素直に信用できないのだ、とグレンはビッキーを冷たい目で見てやるのだった。

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