第7話「英雄の相棒」

 アヤメから貰った野菜を適当に放り込み、料理鍋でグツグツと煮込む。


 火が通るのを待っている間、グレンはヴァンの伝記を読み返していた。


 ヴァンが女魔術師と共闘する場面だ。

 二人は魔物の群れに包囲され、圧倒的に不利な状況にあったが、両者とも冒険者としての実力が高く、息の合ったコンビネーションで戦況を逆転させる。


 ヴァンは女魔術師に礼を言う。


「きみがいなければやられていた。助かったよ。感謝する」


「それは私も同じよ。こうして力を合わせれば、この危険なダンジョンも攻略できそうね」


 このあと、女魔術師の言葉通り、協力した二人はダンジョンの最奥に辿り着き、目的の宝物を入手するのだ。


「確かに、あのヴァンもずっとソロってわけじゃなかったけどさ……」


 グレンはため息を一つついて、擦り切れた古い本をパタンと閉じた。


 ちなみに、その後のストーリーを少し紹介すると、ヴァンは女魔術師とイイ感じになるものの、なんやかんやで話がもつれて離別することになり、いつもの一人旅に戻る。しかしそのあとの話で再会し、付かず離れず腐れ縁のような関係が続くのだ。


「ごめんくださ~い! グレン、いる~?」


 外からアヤメの声がして、グレンの家の扉がノックされた。


 グレンが扉を開けると、キラキラと目を輝かせたアヤメが開口一番こう言った。


「ねえ、グレン! 一緒にパーティを組む冒険者を探してるってホント!?」


 グレンは頭を抱えた。


「……誰から聞いたんだ?」


「ビッキーさん! ヴァンの聖剣を手に入れるために、AA級ダンジョンに挑戦する仲間を探してるって!」


「全部バラしてるじゃないか、あの人……」


 アヤメの瞳がピカッと一際強い光を放つ。


「最初に聞いたときは信じられなかったけど、本当なんだ! グレン、ついにパーティを組むことにしたんだね、やったあ!」


 飛び上がってまで喜ぶアヤメ。そのあまりの勢いにグレンは気圧されながらも、首を横に振る。


「いや、待て。確かに、もし本気で攻略するならソロではなくパーティで挑む必要があるなとは思っていたが、実際に実行に移すかどうかはまだ答えを決めかねていてだな――」


「わかった! じゃあ、【風の旅団うち】の団長に相談してみる! もし行けるってなったら、絶対わたしも一緒に連れていってね!」


「いやだから待てって、アヤメ。俺はまだ答えを――」


 アヤメはグレンの話も聞かず、踵を返してあっという間に遠くまで走っていってしまった。


 そして、一時間後……


 グレンが野菜鍋を平らげて、コーヒーで一服していると、再び家のドアがノックされた。


 扉を開けると、テンション爆上がりだった先程とは打って変わって、肩を落として意気消沈したアヤメの姿があった。


「ごめん、グレン。ダメだったよ……」


 あまりの変わりように再び気圧されながら、グレンは「そ、そうなのか」と相槌を打つ。


「AA級は危険すぎるって……。“旅団にはそこまでのレベルに達している冒険者はいないから、うかつに返事できない。挑むにしても、長い準備の期間がいるし、命懸けだからみんなの決をとる必要がある。簡単に挑んでいいダンジョンではない”って団長とか古参の人に言われた。めちゃくちゃ真剣な顔して、説教みたいに長々と説明された……」


 頑張ったけど、ごめん、とアヤメが深々と頭を下げる。


 グレンはアヤメを励ます意味でも優しく言葉を掛ける。


「いいんだ、気にするな。それくらい危険なダンジョンなんだ、その反応が普通だよ。この都エルドラドの最強のギルドでも、恐らく似たような返答になるだろう。謝るな。アヤメは何も悪くない」


「せっかくグレンとパーティが組めると思ったのに……」


「まあ、結局、俺にはソロが一番お似合いってことなのかもな」


 がっくりしたままのアヤメを前に、グレンは自嘲気味にぼそりと呟く。


 そしてそう口にした瞬間、ようやく決心がついた。


 今までだって、ずっとそうしてやってきた。無茶や無謀は四年前から何も変わらない。

 行くならば、俺のやり方ソロで行くべきだろう。

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