第31話

 うちの家では、必ず晩飯を家族揃って食べるということを決まりにしている。

 正直、高校生になって親と言い合いをすることもあるので避けたいときもある。

 しかし、そうでもしないと俺たちが普段どんなことをしているか全く聞く機会が無いからとほぼ強制されている。


「亜弥、最近学校はどうだ?」

「うーん、別に変わったことはないかな。テスト終わったし、落ち着いてるよ」


 漠然とした質問に嫌そうなそぶりもせずに答える妹。

 俺からしたらどうだ?って言われて何がよってなって答える気を失うんだが。


「亮太はどうなんだ?」

「どうなんだって言われてもな……。まぁ宿泊学習が近くなってその事についての決めることが最近多いな」

「そう言えばそんなこと言ってたね。どんなことをするかとかもう分かってるの?」

「基本的に勉強だけど、課外活動あるらしいよ」

「いいなぁー、私もそういうイベント欲しい」

「そう言うお前も、来年には修学旅行あるだろ」

「まぁそうなんだけどさ。兄さんの現状聞いてると絶対に楽しそうなんだよねぇ」

「どういうこと??」

「父さんも母さんも聞いてよ。兄さんってば、葵姉ちゃん含めて可愛い子達と楽しく過ごしてるらしいよ」

「余計なことを言うなよ……」


 妹が親に会話の爆弾を投げ込んだ。

 妹をそれなりに信用して、親に話さないようにしておいた古山や葵と関わりがあることを暴露された。


「確かに葵ちゃんが同じクラスなのは知っていたけど、あんた中学の時に急に距離取ったからねぇ。思春期特有の面倒なやつで」

「そんな言い方ないだろ」

「まさかまた仲良くなってるなんてねぇ。そろそろ付き合ったりする?」

「は? 付き合うわけねぇだろ。いい年して恋愛脳やめろよ」


 妹といい、母親といい葵のことをリスペクトというか高く評価しすぎである。

 そして、俺に何とかくっつけとそそのかす。中学の時に葵と距離が出来はじめた時、母親にしつこく迫られて一回本気でぶちギレたこともある。


「ま、何はともあれ葵ちゃんに迷惑はかけるなよ」

「そんなこと言われなくても分かってるよ」

「話は戻るけど、課外活動って何するの?」

「炊事とかカヌーとか後は各クラス集まって出し物、レクリエーションとか?」

「あー、女装するための制服の話あったもんね」

「「女装するための制服??」」


 これも親に話さないように進めてきた話を、ついに妹はしゃべってしまった。

 先ほどの古山たちと関わりがあることについてはそれなりに話してもそこまで特に問題がないとわかって話していたが、これは違う。

 しゃべった後にしまったという感じで申し訳なさそうにしたが、もう時すでに遅し。


「どういうこと?? 詳しく教えてよ」

「……何かうちのクラスでは女装することになって女子の制服をどうにかした借りろみたいな流れになったんだよ」

「……で、お前は誰から借りるつもりだ?」

「……」

「観念しなよ、兄さん。本当は私に貸して欲しいってまず頼まれたんだけど、最近暑くて替えが欲しいこととかあって、他の人に頼んだの」

「それで誰に頼んだの?」

「……葵だよ」

「あんた……」「お前……」


 両親揃って言葉は同じような響きだが、表情は全く違う。

 父親は本気で引いており、母親は何故か目を輝かせている。

 個人的には父親の反応が正しいと思う。


「で、今週末に私が葵姉ちゃんと遊びに行くからその時に受け取る話になってる」

「亮太お前……。さすがにそれはどうなんだ」

「父さんの言いたいことは分かる。でも、どうしようもなかった」

「別に良いじゃない。葵ちゃんはやっぱり優しいわね!」

「……亜弥。宿泊学習始まるまで、お前が葵ちゃんの制服を管理して亮太に渡すな」

「え? 何で?」

「変なことをしないか心配でしかない」

「全然信用されてねぇな……」

「素直に言えば、何とかする方法などいくらでもあるのに……。葵ちゃんに迷惑をかけおってからに」


 何故かものすごく父親に怒られる結果になった。

 確かに葵に気を遣わせたことは間違いないので言い返すことは出来ないが。

 しかし、怒られたことよりも一人の男としての信用が無いという現実にショックを受けざるを得なかった。


 食事を終えて、自室にこもってスマホをいじる。

 ここ最近は、古山と吉澤とは毎日何らかの話をしている。

 厳密に言えば、お互いに会話を切るという雰囲気にはなれずにずっと会話が続いているような感じだろうか。

 他愛の無い話だが、日々の日課になりつつある。


「兄さん、ちょっといい?」

「おっとと、どした!?」


 いきなり妹がドアを開けて、声をかけて来たので飛び上がった。

 別にやましいことをしているわけではなかったが、全く気がつかず不意に声をかけられたのでかなり驚いた。


「ノックしても全然反応無いし、様子見たらずっと黙々とスマホ弄ってたけど」

「悪い、全然気が付かなかった」

「さっきの父さんが言ってたけど、私が制服預かるので大丈夫?」


 先ほどの話について、確認を取りに来てくれたようだ。


「悪いがそうしてくれ」

「分かった。じゃあ、宿泊学習の準備をするときに忘れずに私に声かけてね」

「了解」

「で、もう一つ聞きたいことあるんだけど……。やっぱり高校一年の宿泊学習でも写真撮影してくれるカメラマンさんとかいるのかな!?」

「どうした?? いるんじゃないかな?」


 よく中学や高校の宿泊学習や修学旅行では、カメラマンが同行して色んな場面の撮影をしてくれる。

 学校に戻って数日後に写真の一覧が出て、自分の写っている写真や気に入ったその場所の写真などを購入することが出来る。


「じゃあ、兄さんは葵姉ちゃんと例の美人さん二人と絶対に色んな活動してきてね!」

「何故そうなる」

「えー、だってその美人さん見たいし? 葵姉ちゃんはいつでも可愛いから色んなことしてるところ見たいし? 兄さんが一緒に写ってれば自分の写真を買うっていうちゃんとした理由でゲットして後々見られるでしょ?」

「俺は兄としてその妹の発想が心配でならないぞ……」


 妹の発想がやや危険なような気がする。

 可愛い女の子が言っているのでまだセーフだが、これが弟とかだったら間違いなく殴っている。


「写真の一覧が出たときに、どの写真にお前の見たい女子がいるか教えてやるからそこで確認して満足してくれ……」

「ダメ! 自分の手元に欲しい! 常に美人を見て癒されたいぞ!!!」

「どうしてうちの妹はこうなってしまったんだ……」


 才色兼備なのに、発想が変態が考え付きそうなものである。

 早めに何とか直して欲しいと俺は切に思った。












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