第22話

 席替えをして、早くも数日が経過した。

 色々と今までとは変わった出来事が起きてもおかしくないと感じていたが、実際にその通りになった。

 まず、俺の席位置が吉澤と葵に挟まれていることについて。

 最初は「もしかすると二人から話しかけられて~」とか考えてどう対応したら良いのか勝手に頭を悩ませていた。

 しかし、家に帰って落ち着いて考えてみたら吉澤の隣には古山がいるので、授業中そんなに俺へ話しかけて来ることはないのでは無いのではないかと考えていた。

 その考えにたどり着いた瞬間、しょうもないことで必死に悩んでいた自分が急に恥ずかしくなった。

 吉澤にはくだらないことを考えていそうとはっきり言われたが、まさにその通り。

 せめてもの救いは、そのしょうもない悩みの内容が吉澤にバレなくて済んだこと。

 こんなことを考えていたなどとバレたら、また弄られてしまう。

 そんな事を考えて恥ずかしさに自室で悶えていたら、風呂に入れと急かしに来た妹に見られて汚物を見るような目で見られた。

 そんなこともあって、少し冷静に新しい席での学生ライフを過ごしていこうと思った。


「あの、桑野くん」

「ねぇ、亮太」


 自分でも考え直した結果、あり得ないと思ったことが何故か現実に起きてしまった。

 授業中、近くの人と話せる時間になると葵と吉澤どちらにも声をかけられる。

 確かに葵はあまり友達を作らないこともあって俺に声をかけてくるのは分かるが、なぜ吉澤まで俺に話しかけてくるのか。

 難しい問題などが授業中に出てきたり、自然と回りの人と確認したくなる問題が出ると話し合う時間でなくても近くの人と話す機会は割とあるもの。

 何気ない話なら吉澤も古山と話すことで問題ないが、ポンコツな古山だとそのような話の時に役に立たない。

 それで、近くで話しやすい俺に自然と声をかけている?ようである。


「あ、春川さんどうぞ」

「いーえ、吉澤さんこそ亮太とお話しすればぁ?」

「……」


 こうしてお互いに俺に声をかけるタイミングが合わさると、ギスギスしたやり取りがすぐに始まる。

 まず、吉澤は葵と絶対に目を合わせることはない。

 ただ、棒読みで感情を一切込めない言葉を発してそのまま古山のいる方、すなわち葵に背を向けてしまう。

 葵は葵でいつも語尾を丸めて甘ったるい話し方をするのだが、吉澤と話すときばかりは語尾の口調がきつくなってむしろ怖い。

 吉澤自身がどうしても葵に合わないことは何度も聞いているし、葵の方もスタンスを変える気がない。

 それはこの二人の関係性が何も変わることが無いと言うことを指しており、俺自身もこの二人に軽はずみに何か仲直りとか窘めることも出来ない。

 この二人がこういったギスギスした会話をした後はそれぞれ背を向ける結果、俺はなにもしていないのに話し相手を何故か失ってしまう。


「どうしてこうなるんだ……」


 そして俺の方から吉澤か葵の方に声をかけるようになった。

 声をかけると、どちらも話し相手になってくれて断られるということはないのでそこは助かるのだが……。

 声をかけなかった側の反応がとても悪い。


 吉澤の場合。


「……別に構いませんよ。私は由奈と話せばいいわけですから。問題分からないままにはなっちゃいますけど……」


 葵の場合。


「……別に良いのよ。あんたはあんたの好きなようにするのが一番よ」


 どっちも切れねええええ!

 お互いにちょっと元気なさそうに反応してくる辺り、とても心に刺さる。

 かといって、どちらとも話さないというわけにはいかない。

 結局、どちらと話してもどちらかの反応でこっちの心が削られるので、開き直って自分の基準で二人と会話していくことにした。

 その話し合わないと結論を出すのが難しい問題の答えを、この後誰かが指名されて答えなければならない時とかは状況的に指名されやすい方と優先的に話し合う。

 ……そうじゃないときにバッティングしたら、直前までどちらとより多く会話したか思い返して帳尻を取るしか……ない。

 せっかく吉澤と友達になれたし、葵とは妹のことも含めてどちらにも距離をとられると個人的にはとても辛いので頑張るしかない。


「あいつが頭が良ければ……。ここまで俺が苦労する必要もないのに」


 吉澤と楽しそうに話す古山を恨めしく思いながら見ると、いつも目が合う。

 俺が負の感情を抱いていることなど、考えてもいない様子でニコニコと笑顔を返してくる。

 そんな古山と俺だが、吉澤一人挟むだけで途端に教室内で会話する機会が減った。

 横三人で話すとなると、それなりに話す声も大きくなる。

 休み時間も今までは勝手に声が聞こえてきていたぐらいだが、今の配置だと耳を済ましてやっと聞こえるかどうかというレベルだろう。

 そこまでして、休み時間に古山の会話に入ることは今までもしたことがない。

 そうなってくると、自然と話す機会が減った。

 しかし、移動教室などでは未だに出席番号の順で座る。

 その時は、古山はよく俺に話しかけてくる。

 今までのようにしていた他愛もない話が何割か増して話すようになった。

 恥ずかしながら、話をしすぎて教師に注意されることも度々起こるようになってしまった。

 そして放課後は、古山が試験で赤点を取らないために各科目の基礎的な内容をもう一度教える。


「この問題はこの答えで合ってる?」

「違う。公式は合ってるけど、計算間違ってる。もう一回丁寧に計算し直してみて」


 結局のところ、トータルすると会話する頻度自体は変わっていない。

 むしろ試験勉強に付き合った後もそのまま通話が続いたり、メッセージアプリでのやり取りが以前より多くなった。

 そんな古山との会話をしていると、彼女のコミュ力の高さを伺い知る事が出来る。

 教室内ではどんな人が話を聞いているか分からないのであまり交遊関係などを話すことはないが、古山と通話で話しているときは割とそういう話を聞かせてくれる。

 俺は、特にどの人とどの人が好き同士とか付き合っているかなどの情報に全く興味がないので自分から知ろうとはしない。

 そのため誰と誰がどうなっているなど全く知らなかったが、古山との話で初めて知る事が多い。


「で、三木さんと真田君がくっつくことになるのかな?」

「へぇ、お前に教えてもらわないとそんな事一生知ることなかったわ」


 ぶっちゃけ聞いたところでどうでもよい話。

 だがこうしたことを聞いているとコミュ力の高さだけでなく、古山の顔を広さも感じる。

 正直なところ、聞いた話の雰囲気だと他の女子が好きな男子を古山に取られるか不安で牽制しているように聞こえなくもないが。

 古山は多分俺の事を信用してそういうことを話してくれているのだろう。

 当然他の人に話すつもりはないが、あらかじめ知っておけば地雷を踏む可能性が減るので、ありがたく彼女の話を聞かせてもらっている。


「みんな恋愛するのがはえーなぁ」

「んー、まぁそうだね。でも、急ぐ理由はテスト終わって来月にある宿泊学習が影響しているんじゃない?」

「あー、そういうことね」


 この五月下旬のテストが終わると、一年生の次の大きなイベントとして宿泊学習が六月にある。

 県外の山奥の少年自然の家?とか言うところに監禁されて、そこでわざわざ勉強するという家が大好きな俺からすると鬱イベントがある。

 もちろん勉強するだけでなく、他にもイベントが多く企画されるらしい。

 そこで盛り上がった雰囲気を利用して告白。カップルが多く成立するのは用意に想像できる。


「またお前、面倒なことになるんじゃないのか?」

「……かもね。何とかしたいけど、どうにもならないよね」


 当然、その勢いは古山にも向けられることだろう。

 俺には何も不安が無いが、古山にはそういった問題がすでにちらついている。

 モテる存在、高嶺の華もそんなに気楽なものではないことは分かる。


「ま、部屋に籠ってれば何とか……」

「二泊三日だからどっかで捕まりそうな気もするがな……」

「ふ、不安になるようなこと言わないでよ!」


 不安を煽るつもりはないが、こういう時にハイテンションになった人を止めるのは簡単なことではない。

 古山のう~んと唸る声が聞こえてきたが、特に解決策が見つかるわけもなく。

 とにかく今は、テストに向けて勉強することに集中するしかない。



















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