第21話

 先ほど昼休みに、中間試験に向けて古山の勉強を見るということで話が進んだが、その後五時間目終了後の休み時間に再び集まって話し合った。

 その結果として、明日から勉強を始めることにした。

 今日は古山自身にあった一件で、とても勉強する気にはならないだろうという吉澤の計らいである。

 明日から勉強していくのだが、この一週間は俺がメインで面倒を見なくてはならない。

 吉澤自身が部活に入っていて、来週のテスト週間まで時間があまり取れないからだ。

 テスト週間はかなり古山のことをしごいてくれるらしい。

 そして現在、六時間目が始まったところである。

 今日最後の時間はHR。担任が入ってきて、話を始める。


「今日は特に話し合うこともないので、テストも近いし自習にしようかと思うんだけど……。その前に一部の人から席替えをそろそろして欲しいっていう要望が出てますけど、しますか?」


 その一言に一斉にクラスが盛り上がる。

 話によると、他のクラスでは席替えをすでにしているらしい。

 その事を知ったうちのクラスの人が担任に直談判に行ってこのような話になったようだ。


「私的には、テストが終わってから席替えをする方がいいかな~って思ってたんですけど」


 担任がそう言うと、一斉にブーイングが起きる。

 あまり怒らない教師なので、クラスみんなこういう言動をすることにあまり抵抗が最近無くなってきている。


「わ、分かりました。でも、席替えしてもちゃんとしっかり真面目に授業を受けてくださいね」

「「「はーい」」」

「では、急いで簡易くじ引き作りますのでそれまで静かに自習しててください」


 そう言うと、担任は教卓の中に入っている余ったプリントをハサミで切ってくじを作り始めた。

 そして十分後。担任が作った簡易くじで席替えの場所を決めることになった。


「黒板には今の席の位置に適当な番号を振りました。今からくじを皆さんに引いてもらって引いた番号のところに移動するということで。くじを引く順番は教室の角に座っている人四人でじゃんけんして勝った人を起点に引いていきますか」


 こういう時のじゃんけんというのはやけにみんな盛り上がる。

 ハイテンションのまま、じゃんけんをしてそのまま順番が決定してくじを引いていく。

 ちなみに、俺や古山の順番はかなり後ろの方。

 実はクラスの中で、出席番号最後の吉澤がじゃんけんに勝利した。

 そのため、吉澤から出席番号を遡って行くようにしてくじを引いていく。


「もう桑野くんの後ろの席も終わりかぁ」


 吉澤が早速くじを引いている姿を見ながら、古山はそんなことを口にした。


「分からんぞ? 確率的には低くてもまた同じ構図になることもあり得る」

「まぁね……。でも無いだろうね」


 一人ずつくじを引いていく毎に、段々と席が決まっていく。

 その度に一喜一憂するクラスメイト達。


「じゃあ、次の人~」


 いよいよ、自分の番になる。箱の中に腕を突っ込んで、少なくなった紙の一枚を手に取る。


「三十……?」

「はい、桑野くんは三十番ね。席としてはここね~」

「……まじか」


 俺がこれから座る席の近くの隣人の名前を見てそう一言だけ口にしてしまった。

 全員のくじ引きが終了。無事にみんなの席位置が決まった。

 理想に近い環境を手にいれた者もいれば、うまくいかずに元気を無くした者もいる。

 そんな中、俺の席は――。


「いや、これはないわ」

「何でですか」

「開口一番ひどくなぁい?」


 俺の席の左に吉澤が、右には葵という状況が出来上がった。

 席はまた後ろの方でかなりありがたいが、この犬猿の仲である二人に挟まれるとは。


「あはは、なかなか面白い配置だねー」


 そう言う古山は吉澤の更に左。俺たち四人が横一列に並ぶというある意味奇跡的な配置になったしまった。

 古山は吉澤が隣にいるために、困ったときも何とかなりそうなのでかなりご機嫌な様子。

 俺からすれば、左右の二人が俺を挟んでいつか喧嘩をするのではないかとすでに不安を感じている。

 それにもし、授業とかで隣の人と話し合ってーって言われた時に吉澤と葵同時に話しかけられたりでもしたら……!


「どうしたらいいんだ……!」

「何を悩んでいるんですか?」

「いや、何でもない……」


 難しい。本当に難しい問題である。


「何かとてつもなくどうでも良いことで悩んでそうですね。そんなこと考えない方がいいですよ?」


 吉澤にそう冷たくあしらわれたが、個人的にはとても大事なことだと思うのでじっくりと考えることにしよう。


「こっからでも桑野くんとはお話しできそうだね! おーい!」

「本当に止めてくれ……。吉澤がいるんだから何とかなるだろ」


 古山なら本当にやりかねないような気がするので、吉澤に何とかしてもらうしかない。


「ふふ、亮太モテモテねぇ。妬いちゃうわ」

「うるさいわ」


 嫌なタイミングですかさずこの幼馴染は入ってくる。

 控えめ言って、席替え後して数分後にはこのカオスぶりである。

 俺たちの回りだけではなく席替えをした結果、みんながざわついて結局その後まともに自習をすることはなかった。

 ただただ席替えをして、六時間目のHRが終わった。

 帰りの支度をしている時に友人達には吉澤と葵に挟まれて羨ましいとか言われたが、この二人の関係性を知っているので何も嬉しさを感じない。


「古山にだけ振り回されてた方がよかったかもしれない……」


 まだ席替えをしてちゃんと授業をしていないので分からないが、今の段階ではそんな感想を抱かざるを得ない。

 そしてテスト週間前の部活で盛り上がる高校から帰宅する。


「だだいま」

「あ、お帰り兄さん」


 帰宅すると、妹が干していた洗濯物を山盛り抱えている姿に遭遇した。


「よいしょっと。畳むの面倒だからこのまま置いちゃってていいか」

「取り込んでさえおけば何も言われんやろ」

「だよねー」


 そう言うと靴下を脱いで、洗濯機に放り込んで素足になるとソファに倒れ込んでスマホを弄り始めた。

 制服とかも着替えた方が良いと思うのだが、それを言うとキレられるので何も言わないようにしている。

 ただ、足をばたつかせてスカートが捲れそうで危ういのでその辺りだけは品よくしていただきたいものだ。


「兄さん、何か面白いことなかったの?」

「面白いこと? 席替えはしたぞ」

「あっちゃー、美人さんとは離れ離れになったのかー」

「その代わり、葵と隣になったけどな」

「マジで!?最高じゃん!!」

「お前目線ならな」


 ソファでくつろいでいた妹がカバッと起き上がって目を爛々と輝かせた。


「いいなぁ、葵姉ちゃんを授業中でもそばで見られるなんて……! 兄さん、運使ったね!」

「俺からしたら不幸なんだけどな」

「は? 意味分かんない」

「別に分かんなくていいよ。子供には分かりかねる事情があるのさ」

「うわ、キッモ」

「妹よ、少し言葉が厳しいぞ……」


 ドストレートな罵倒にかなり心が砕ける音がしたが、妹を愛でる兄としてはこれぐらいで挫けてはならない。


「ちゃんと葵姉ちゃんと仲良く、そして優しくしてよね」

「へいへい」

「優しくしてなかったら、兄さんとこれから一切口利きしないからね」


 幼馴染の事になるとどこまでもムキになる妹。

 席替えした事での不安要素が、学校外にも発生したことにため息をつかざるを得ない。












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